今年、全国で相次いでいるクマによる被害。そのなかでも特に多いのが秋田県だ。県内で2016年に起きた「十和利山クマ襲撃事件」は、死者4人、重軽傷者4人を出し、本州で起きた最悪の獣害事件となった。死者数では「三毛別ヒグマ事件」に続く事例だ。クマの研究を長年続け、事件現場での調査にも加わった日本ツキノワグマ研究所の米田一彦さんは、同じ地域でクマによる人身被害が相次ぐことなどから、人を襲うクマの「集団」が存在する可能性も疑っている。
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「十和利山クマ襲撃事件」の現場となった場所は、秋田県と青森県の県境にある十和田湖の南の山中だ。犠牲者の多くは、山の恵みである根曲がり竹(タケノコ)を採集する「採り子」と呼ばれる人たちだった。
彼らは当初、危険性が高い複数の「人喰いグマ」が徘徊していることを知らされずに入山し、それが被害を拡大させることになった。
秋田県自然保護課の職員としてクマ対策に従事し、その後フリーのクマ研究者となった米田さんが、広島県内の自宅から車で鹿角市に向かったのは2016年5月22日。
「事件の発端となった死亡事故が5月20日に発生したときは、普通の人身被害だと思っていた。ところが22日、『第2の犠牲者を収容した』と地元の人からメールが送られてきた。『これはただことではない』と感じて、すぐに駆けつけた」
これは1頭じゃない
現地に到着した米田さんは23日、研究所のホームページを更新し、次のように情報を発信した。
「2件の死亡事故は同一グマによる犯行だ。第一犠牲者の遺体に食害があれば3件目の死亡事故が発生する可能性大」
クマが最初の犠牲者と突然遭遇し、驚いて攻撃した末に食害したのかもしれない。しかし、続いて犠牲者が出たことはクマが人間を「食べ物」と認識したことを意味した。つまり、「人喰いグマ」の出現である。