クマの個体識別を行い、「推定に推定を重ねた」結果、「主犯」の可能性があるクマを2頭に絞り込んだ。
第1、第3、第4の被害者を殺害したとみられるのが「スーパーK(鹿角の頭文字)」と名付けた84キロのオスグマだ。そして、第2の被害者の遺体のそばで目撃された子グマを連れた120キロ級の赤毛のメスグマだった。
同年9月、「スーパーK」はデントコーン畑に仕掛けた箱わなで捕獲され、駆除された。しかし、赤毛のメスグマは捕まらないままだった。
「遺体の食害に参加したとみられる子グマは親離れした後、牛小屋を襲い続けて駆除されたんですが、親のほうはわなをかいくぐり続けた」
事件直後から秋田県は、駆除を強力に推し進めた。目撃情報から、ほかにも食害に関与したクマがいることが強く疑われていたが、おそらくすべて駆除されたと米田さんは見ている。
それでも米田さんは、つい最近までこの地に通い、根気強くクマの観察を続けてきた。
というのも、米田さんは県庁時代から、同じ地域で重大な人身事故が連綿と続いていることに気づいていたからだ。
全国の事故を拾うと、そのような地域がいくつも見つかった。それは攻撃的な血筋を受け継ぐクマ集団の存在を強くにおわせていた。
「問題グマ」出現の原因は
「どうして、そんな『問題グマ』が現れるのか、考えるわけですよ。最初は弱い動物を狩るわけだけど、肉食経験を持つと、そういうクマになりやすいわけだよね。おそらくシカやイノシシが増えて捕える機会が増えたとかで」
十和利山クマ襲撃事件の真相はいまだに闇の中だ。
「この事件については、歴史に残すために本も書きました。その内容は今後、新たな科学的な根拠が明らかになれば、それに基づいて直してもらうべきものだと思います。でも、もうかなり難しいでしょうね」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)