経済の停滞、IT化への対応の遅れ……。失われた30年の間に、さまざまな課題が生まれた。政府が本腰を入れようとしている「リスキリング」は、起爆剤になるのか。AERA 2023年11月27日号より。
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最近よく聞くようになったが、そもそもリスキリング(Reskilling)とは何を指すのか。一般的には、新たな職業に就くため、もしくはいま就いている職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するためのスキルを得ること、また得させることをいう。
しばしば「学び直し」と言い換えられるが、「リスキリングと『学び直し』は、実は全く違うものです」と話すのは、自治体や企業のリスキリング導入を支援する「一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ」代表理事の後藤宗明さんだ。
後藤さんによると、学び直し(リカレント教育)とは、学校を離れた後、学びを続ける生涯学習のこと。だが「リスキリングは学んだ先が重要だ」という。
「リスキリングは、仕事で通じるスキルを新たに身に付けることです。学ぶこと自体が目的ではなく、学びを仕事に生かしてこそゴールなのです」
岸田首相のズレた感覚
岸田文雄政権もリスキリング支援に本腰を入れ、今後5年間で1兆円を投じるとしている。だが今年1月、国会で育休中の社員のリスキリング支援を行う企業に国の支援を検討するよう、自民党議員が求めたのに対し、首相は「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々を後押ししていく」と答弁。そのズレた感覚が「育休中は暇だと思ってる?」と怒りを買った。リスキリングへの理解や支援の本気度も怪しい。
企業はリスキリングをどう実践しているのか。
かつて電話帳の印刷が主力だった西川コミュニケーションズ(名古屋市)は、リスキリングによって、AIを使いこなす企業に生まれ変わった。
電話帳印刷の仕事がなくなって代わりに増えたのは、広告のチラシやカタログの企画と印刷。やがて印刷の受注も減ったが変化に素早く対応。すべての工程をDX化したほうがいいんじゃないか?と、紙の広告のデザイナーが3DCGを学び、メタバース(仮想空間)でのデザイン表現ができるように。メタバースの会議システムなどのサービスを開発した。