山形県庁 語学研修にのぞむ職員たち。毎週金曜日の午後2時からで、参加するのは国際交流やインバウンド推進担当者、保健所職員、専門研究職、窓口業務担当者など主に英語を使う職員たちだ(写真:山形県庁提供)

「日本はデジタル競争力ランキングで29位ですが、トップのデンマークや上位のアメリカ、スウェーデン、シンガポールは2015年ごろから真剣にリスキリングをしていました。そのころから人材を育てていたのです」

 日本でリスキリングがなかなか浸透しない背景には、構造的な問題があると後藤さんは考えている。

「企業がデジタルの重要性を理解してこなかったのですが、それ以前に日本企業の文化が影響していると思います。学んでも昇給や昇格につながらず、むしろ業務と無関係だと言われる。半面、社内政治に強い人が昇格する。組織の風土が変わらなければ学べません」

学ぶのが「当たり前」に

 近年はリスキリングの対象や概念がIT分野以外にも広がっている。琵琶湖のある滋賀県では、三日月大造知事が「グリーン・リスキリング」を掲げている。環境先進分野のスキルを身につけ、新たな仕事につなげることを目指す。他にも、例えば保険会社が宇宙関連の商品を開発、メーカーが宇宙で使えるシャンプーを作るなど宇宙で必要なものを学び、新たに開発するといった分野がある。

 リスキリングによって、「学ぶことが当たり前」の職場風土が醸成されつつある組織もある。山形県庁では、県職員が英語を「リスキリング」している。県職員育成センター人材育成課長の村川洋行さんは、取り組みを始めた理由をこう話す。

「今はどの自治体も、少子化で人材不足です。職員を資本と考え、一人一人のスキルアップに投資しよう、となりました」

 部署によって税金、災害対応、DXなど業務に応じて学ばなくてはいけないことがある。一方で、あらゆる部署の職員が学ぶべきこともあるのではないか。

 選ばれたのが英語だった。県の名産であるサクランボや日本酒の海外への売り込み。インバウンドの外国人への対応や外国人への窓口対応の場面でも英語は必須だ。そこでまず、学ぶ環境を作った。

「趣味で英会話を学ぶのとは違います。参加する職員には計画と目標を作ってもらっています。所属部署の理解がないと成立しませんから所属長の推薦も必要としました」(村川さん)

 今年6月から、集まった職員36人が平日の午後、週に1時間(全30回)、ネイティブスピーカーの講師のもとで日常英会話やビジネス英会話を勉強している。

 その結果、庁内に勉強する空気ができた。英語以外にも、各自がDXや官民連携などの研修動画を必要に応じて自由に視聴する時間が平日の午後にある。

 村川さんは語る。

「就業時間内に、学ぶために時間を作ろうという認識が浸透しました」

(編集部・井上有紀子)

AERA 2023年11月27日号より抜粋

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