後藤宗明(ごとう・むねあき)/全国でリスキリングの導入を支援する。著書に『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング 【実践編】』(写真:本人提供)

 100年以上前に産声をあげた印刷所をルーツに持つ同社は、常に時代の波に翻弄されてきた。活版印刷が終了し、活字拾いの職人の仕事がなくなった。1985年に日本電信電話公社が民営化してNTTになって、収益の7割を占めていた電話帳印刷の受注がゼロになり、ピンチに陥った。社員の配置を変え、新たな事業を作らなければならない。必然的に社員の再教育が必要になった。

 西川栄一社長は語る。

「振り返れば、それがリスキリングだったのかもしれません。決してリスキリングを先取りしたのではなくて、新しい事業にチャレンジして生き残るために必要なことでした」

 社員たちは学び、アイデアを次々と形にした。電話帳をヒントに、90年代にはインターネット端末を置いた書店を作ったり、新事業を立ち上げた後も社員は学びを止めなかった。

AERA 2023年11月27日号より

「世界の6、7年遅れ」

 同社でリスキリングを実践するのは、エンジニア担当者だけではない。

 大きなプロジェクトが始まるとき、就業時間内に、希望する社員が外部講師からAIを学ぶ。難関資格に合格したプログラマーには、毎月10万円を手当として支給している。基礎的なITスキルを上げるために、ITパスポートの全社員の合格を目指している。

 外部の業者に発注すれば、社員がわざわざ専門外の技術を学ぶ必要はない。それでも社員が学ぶべきだという。

「通販サイトを作るとき、外部の業者にお願いしては、ノウハウが残りません。詳しい先生を呼んで、教えてもらいながら、社員がゼロから作るんです。時間はかかりますが、学んだ価値が残るのです」(西川社長)

 経営者として頭を悩ませているのは「何を学ぶか」。今後、会社がどんな事業を展開するのかを踏まえ、社長や経営陣が考えるべき案件だと西川社長はいう。

「会社が何にチャレンジするか決まっていないのに、ぼんやりとAIの知識を覚えたとしても、学んだことを使いこなせません。次の舞台を会社が用意して、チャレンジする社員を応援します」

 前出の後藤さんは「日本のリスキリングは世界の6、7年遅れです」と話す。海外では、テクノロジーの進化や自動化が進むなかで、人間の雇用が失われる「技術的失業」の解決策としてリスキリングが注目された。

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