エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 先日、所用で大阪に行ったら海外からの観光客が街に溢(あふ)れていました。今は観光客だけでなく、働く人にも外国から来た人が増えています。

 ここ数年の変化で、いいなあと思っていることがあります。英語を話すことへの心理的ハードルが下がりつつあることです。車内アナウンスや観光ガイドさん、店員さんなど、英語で話を伝える機会は増えていますよね。かつては、いわゆるバイリンガルの発音だと気取っていると言われ、カタカナ英語だとみっともないと言われと、どっちに転んでもダメ出しされる空気がありました。授業で英語を話す時はカタカナ英語にしないといじめられるのでわざとそうしていたという帰国子女の知人も。文法ポリスの取り締まりも厳しくて「だから日本人の英語はダメなのだ」「あなたの英語は恥ずかしい」などと謳う本がたくさんありました(今でもありますが)。最近は、動画でもその手のコンテンツが多いですね。違いを面白く学ぶのはいいけど、細かいことで揚げ足を取ってダメ出しするのは不毛です。

日本語でも英語でも、母語ではない言語でのやりとりがぐんと身近になってきた(写真:gettyimages)

 最近では、店員さんもお客さんも英語が母語でなく、お互いに不完全な英語で工夫しながら意思の疎通をしている場面をよく見かけます。文法が!とか発音が!なんてことより、通じることが大事。気負わず、不完全でも実用第一でお互いに想像力を働かせ合えば通じます。私もバイリンガルではなく、不慣れな英語で話す苦労と楽しさを、身をもって実感している日豪2拠点家族生活なので、この変化は心強いです。

 この前、東京の衣料品店では店員さんもお客さんも日本語が母語ではない人で、二人で日本語でやりとりしていました。これからはいろいろな音の日本語にも耳が慣れていくことでしょう。正確な音と文法を強いるよりも、耳を肥やしてたくさんの人と会話を楽しめるようになりたいですね。

AERA 2023年11月27日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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