AERA 2023年11月27日号より

「親世代が手に入れた全てを得られなかった30年でした」

 貧困の現場を長年見てきた作家の雨宮処凛さんは、そう表現する。いま48歳の雨宮さんは、失われた30年と自らの30年間が重なる、とも。

「20歳から50歳までの30年間は、人生の中でとても大切な時期です。就職をし、人によっては結婚をして子どもを産んで、子育てをします。ローンを組んで家を買う人もいます。しかし、正社員として就職できずに非正規になった人は、不安定な雇用と低賃金によって、結婚も、家を買うことも難しい」

 それを「自己責任」と責められ、本人たちのやる気のなさや能力のせいにされた。多くの人が自分を責め、病んでいった。

「生きづらさを覚え、メンタルを病む人も増えた30年でもあったと思います」(雨宮さん)

 背景に何があったのか。雨宮さんは、「全てのスタートは雇用の破壊にある」と指摘する。

AERA 2023年11月27日号より

つくられた生きづらさ

「雇用破壊の元凶となったのが1995年に日経連(今の経団連)が出した『新時代の日本的経営』と題する報告書です。この中で日経連は、いつでも使い捨てにできる激安労働力の『雇用柔軟型』を提言しました」

 当時、バブル崩壊から数年がたち、どの企業も過剰な債務や設備、人員を抱え経営悪化に陥っていた。それを救済するため日経連が新設を提言したのが、「雇用柔軟型」という低コストで雇用の調整弁に使える便利な労働者グループだった。パート、契約社員、派遣労働者といったいわゆる「非正規雇用」だ。今では非正規雇用は約2千万人と、労働者全体の4割近くに達する。雨宮さんは言う。

「つくられた貧困であり、つくられた生きづらさであり、つくられた非正規雇用です」

 そして、コロナ禍で「この国の底が抜けた」と雨宮さん。

「あらゆるところに貧困リスクを抱えた人がいます。特に女性が増え、若年化しました」

 コロナ禍での生活困窮者に向けた相談会を開くと、訪れる人の約20%は女性で、全体の半数近くが20代、30代ということも。20年以上、貧困問題と関わってきて見られなかったことだと雨宮さんは言う。

「コロナ禍で観光や飲食など、若い女性が多く働く職場が打撃を受けたこともあります。一方で、社会から女性や若者を守る余力がなくなっています。普通に暮らしていても、ちょっとしたことで、一気に誰もが貧困に陥る社会になりました」

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年11月27日号より抜粋

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