「TENOHASI」が配布した弁当などを受け取った人たち。用意した520食は20分ほどでなくなった(撮影/横関一浩)
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 日本経済はバブル崩壊から低迷が続いている。格差が広がり、貧困が広く深くなっているという。背景には何があるのか。AERA 2023年11月27日号より。

【図表】とうとう過去最低の順位。日本の国際競争力の推移がこちら

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 日が落ちるころには、広い公園を埋める長蛇の列ができた。

 10月下旬、東京・池袋にある東池袋中央公園。生活困窮者を支援するNPO法人「TENOHASI(てのはし)」が月に2回行う、弁当の無料配布に並ぶ人たちだ。中高年男性が多いが、若者や女性の姿も目立つ。

「本当に助かります」

 1時間近く並んでいた33歳の男性は、ほっとした表情を見せる。メーカーの営業職で働いていたが、昨年夏に新型コロナウイルスに感染し長期入院した。その後、心の不調で退職。頼れる人もなく貯金で食いつないでいたが、物価高もあって蓄えはどんどん減った。今年になってSNSで食料配布のことを知り、毎回並ぶようになった。

 その声は、切実だ。

「少しでも食費を節約しないと、年も越せなくなります」

不安定な雇用と低賃金

 TENOHASI事務局長の清野(せいの)賢司さんによると、この日用意したのは520食。コロナ禍以前の3倍を超す水準だ。受け取った人は、今年1月には600人を超えた。5月にコロナが5類に移行し利用者は減ると思っていたが、今も毎回500~550人が並ぶという。清野さんは、危機感をにじませる。

「貧困が広く深くなっています。特に今は物価高で、女性や若い会社員など、住む家はあるが、生活が苦しくなったという人が増えている。国が何とか手を打たなければ、社会不安の原因になりかねない」

 平成が始まった1989年、バブル(泡、あぶく)はピークを迎えていた。日経平均株価は、12月29日に史上最高値となる3万8915円87銭を記録。誰もが好景気に踊り、経済大国に上り詰めた快感に酔いしれた。当時、それは長く続くかに思えた。

 しかし突如、バブルは弾けた。こうして日本は、90年代前半から「失われた30年」に突入した。経済は停滞し格差が広がり、今では普通の若者や女性が弁当配布の列に並ぶようになった。この30年で、何が失われたのか。

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