ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。23回目のテーマは「『ボーダーレス』の紅白歌合戦」について。

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 今年のNHK紅白歌合戦の出場者が発表されました。案の定、旧ジャニーズ勢の名前はなく、いよいよもって48歳の私には「名前すら知らない歌手」だらけになりつつありますが、とりあえず今年も紅白がある事実だけで、どこか安堵している次第です。

 自分が知らないからと言って、「こんな人、紅白にふさわしくない!」などと逆ギレしているネット民の方々も、まずは自身の加齢と衰えを受け入れましょう。歳を重ねるというのは、新しい情報をキャッチするアンテナが錆びると同時に、それらをためるメモリー機能の残量が減ることです。欅坂もKing GnuもVaundyも、私は紅白を通して初めて知りました。しかし、彼らの楽曲をきちんと記憶しているかというと、それはまた別の話です。
 

 一方、かつて紅白の夢舞台を彩ったスターたちの訃報が相次いだ2023年。谷村新司さん、もんたよしのりさん、クレージーキャッツの犬塚弘さん、X JAPANのベーシストHEATHさん、さらにはあの大橋純子さんまでもが旅立たれてしまいました。

 大橋純子さんが紅白に初出場(1979年)した際に歌ったのが、名曲「ビューティフル・ミー」です。子供の頃から一度も「きれい」と言われたことのない女性が、「あなた」と出逢ったことですべてが輝き、「生まれてきてよかった」と歌う自己肯定ソングでありながら、だけどそこはかとない儚さと虚しさの漂う、まさにオカマにとっては打ってつけの楽曲で、私も今から20年ほど前、新宿二丁目の薄汚いステージで散々歌わせて頂きました。
 

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