新聞記者時代は、自分でどう考えるかというよりは、何が発表されるかを追いかけていた。
それが東洋経済新報社に移籍し、四季報で何社も担当するようになると、ここでの取材が「過去に何が起こったのかではなく、先に何が起こるかを書く」ためにあることをたたき込まれる。そのためには財務諸表も読めなくてはならない。担当する会社を定期的に訪ね、社長とも議論をする力がなくてはならない。
そうして主体的な定点観測を続けているうちに大きな問題に気がつくことがある。
たとえば損害保険ジャパンを担当していた記者は、四季報の取材の中で、ビッグモーターの保険金不正請求の件を知り、国交省の聴取で不正が炎上することになる一年前に、〈保険の「不正請求疑惑」めぐり大手損保が大揺れ 中古車大手ビッグモーターの組織的関与が焦点〉との記事を東洋経済オンラインに掲載している。
東洋経済新報社の創業は明治28年(1895年)。創業者・町田忠治は、東洋経済新報の創刊号の社説で「政府に対しては監督者、忠告者、苦諌者となり、実業家に対しては親切なる忠告者とならん」と書いた。
官僚からペーパーを抜くのではない、会社の言うなりに書くのではない、独自の判断を提示するジャーナリズムとしてそのイズムは今日にも受け継がれている。
下山進(しもやま・すすむ)/ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文春文庫)など。
※AERA 2023年11月20日号