がん診療のように検査や診療の流れがきちんと作られていない

――長期の予約待ちを改善するために、たとえばがん診療のように、最初の段階である程度ふるい分けをして、高度な医療が必要であればもっと大きな病院に行きましょうといった、医療機関の機能分化はできないものでしょうか。

 がん診療の場合は「こうなったらこういうふうに展開する」といった検査や診療の流れがきちんと作られていて、共有されていますよね。児童精神科の場合は発達障害概念だけが一気に膨らんでしまったがために、子どものこころの医療全体の高度医療性をどう考えるかは、まだ十分に議論されていないように思います。自殺や虐待を除いて、子どものこころの緊急性をどう規定するのかは難しいですよね。また正直、大きい病院が、すべての領域の専門性を持っているというわけでもないので、問題によってはクリニックのほうが専門的ということもあります。しかしこの傾向は子どもだけでなく、実は成人も含めた精神科におけるテーマのようにも思います。

 当クリニックを受診する患者さんの親御さんを見ていると、いろいろよく調べていますし、いくつかの医療機関を回ってきた人の中には、「過去に受診したところでは納得がいかないから、もっと専門的なところへ」という思いで受診してくる人もいます。意識が高い親御さんが、機能の高い医療機関に寄ってきているという傾向は一つの現実だと思います。

――いい医療にたどり着くには、市場原理的に親が賢くなるしかないのでしょうか。

 児童相談所や療育機関からの紹介で、一筋縄ではいかないようなケースが適切な児童精神科につながることはよくあります。そのような点から言えば、医療だけでなく子どもに関わる専門的な機関の機能向上は一つの答えなんだろうと思っています。また医療機関同士の連携もやはり大事で、自分のところではできないケースを他に紹介できる能力というのも大事な気がします。実際に県域レベルでそのようなネットワーク作りをしている地域も存在します。

次のページ
親はどう行動すればいいの?