ただ小児科医と言っても経験はさまざまで、先生によっては私よりよほど発達障害に詳しい先生もいます。あまり専門性が高くない医療機関にかかって診断をもらっている人が少なくないことは、間違いないような気はしますが。

――こうした状況について、小平先生はどうお考えになりますか。

「診断がつくのかどうか」ということにばかり社会の注目がいくことが、妥当かどうかという気はします。本来は「診断された後に子どもに何が提供されるか」がとても大事なはずです。例えば「放課後等デイサービスに行く」「学校での合理的配慮を受けたい」ということがその子や家族にとっての希望であれば、早くに診断されることは望ましいでしょう。逆にその診断によってその子がひどく傷ついたり、家族の諦めが際立ったりする場合や、発達障害以外の病理も複雑に絡み合っているような場合は、「発達障害の診断を早急にする意味があるのか」という気持ちになります。基本的には、その後の支援もなくただ診断するだけというのは、医療的にはナシですよね。

――児童精神科全体で予約待ちが発生している現状において、信頼のおける児童精神科医に受診できるまで待っていてもいいのでしょうか。手遅れになるというようなことはありませんか。

「とにかく急いだほうがいい」というケースへの対応策は、十分とは言えないまでも社会システムの中に用意されています。自殺をしようとした場合など緊急な場合には精神科の救急システムで、入院病棟を持つ医療機関が対応していますし、親の虐待が認定されるケースであれば児童相談所がかなり積極的に介入するようになっています。1歳児健診や3歳児健診で明らかに発達の遅れが見られる子どもには発達障害の枠組みで療育機関などが対応していると思います。そのような「明らか」なケースには、緊急的あるいは構造的な支援が動いているわけです。

 問題は「グレーゾーン」と称される程度のケースや、問題が複雑で介入が一筋縄ではいかないケースなどがたくさんあるわけですが、「グレーゾーン」ケースであれば時間的な猶予は多少あるでしょうし、一筋縄ではいかないケースでは専門性が高くない医療機関が「とにかく急いで発達障害診断をする」だけはあまり意味がないように思います。

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医療機関の機能分化はできない?