Queen/1971年結成。73年、『戦慄の王女』でデビュー。写真は1991年に死去したフレディ・マーキュリー(Vo,Key)=1975年(photo:Photoshot/アフロ)
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「ロックは死んだ」と何度も宣告される中、ローリング・ストーンズが18年ぶりの新作を発表。今こそロックの名盤をあらためて聴いてみよう。音楽評論家で朝日新聞編集委員(天草)の近藤康太郎がガイドする。AERA 2023年11月13日号より。

【写真】カンのメンバーが参加している女性ボーカリストPhewのソロデビュー作がこちら

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 この声は、わたしだけに響いている。わたしのことを歌っている。

 そう確信できる声に出会えた人は幸いなり。わたしにとってそれは、ジャクソン・ブラウンやエリック・アンダースン、ジュディ・シルに遠藤賢司であった。

ロックは、声だ!

 最初はピンとこない。ある日、ふとした瞬間、耳の奥に入り、心にしみこみ、もう、この声なしには生きていけない。

『テュペロ・ハニー』(71年)のヴァン・モリソンは、多くの人にとってそういう特別な声だった。わたしも表題曲が流れたとき、「この声があれば、生きていける」と確信した。

 当のミュージシャンにとっても、じつはそうなのではないか。歌うことによって救われる。歌うから生きていける。歌うこと以外に、この世でするなにごとも、なし。

 こんな聴き方をしていけば、ロックの領域はぐっと広がる。サム・クックやオーティス・レディングといったいわゆるソウル・レジェンドだって、“ロック”であることに気づく。アーマ・トーマスやジェームズ・カーの声にたどり着いたら、この世に生まれた甲斐もあった。声を、つかまなければならない。

ロックは、キャラだ!

 小学生でロックにはまったきっかけは、キャラ立ちしたミュージシャンによってだった。

 きみたちかわいい男の子ベイ・シティー・ローラーズ。なぜかドーランを塗りたくった地獄の使者キッス。両性具有的で年齢不詳な、地球に落ちてきた男デヴィッド・ボウイ。真っ白なタキシードでやり過ぎダンディーのブライアン・フェリー(ロキシー・ミュージック)。

 そしてもちろん、クイーンである。『オペラ座の夜』(75年)は名曲ばかりの最高傑作。独自すぎる美学も頂点に達した。少女漫画のコマから飛び出してきたような、大きな瞳に星きらめくキャラクターだったかと思えば、胸毛もじゃもじゃ股間もっこりのバレエダンサー衣装。その後、それほど時を経ずしてひげ面のマッチョになるフレディ・マーキュリー。いったいなにをしたかったんだ?

 常人に理解不能といえばプリンスもそう。ロックは、価値を反転させる。「きれいは、汚い。汚いは、きれい」(シェイクスピア『マクベス』)。ロックはトリックであり、マジックであり、ギミックだ。かっこ悪いが、かっこいい。

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