映画「私がやりました」の舞台は1935年のパリ。新人女優マドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)は有名な映画プロデューサーに「愛人になれ」と抱きつかれ、彼を突き飛ばして帰宅する。が、彼が殺され、容疑者に。困惑するマドレーヌに友人で弁護士のポーリーヌは「私がやりました」と自白する筋書きを考え──。俳優のナディア・テレスキウィッツさんに本作の見どころを聞いた。
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フランソワ・オゾン監督の作品に参加できるなんて光栄の一言につきます。しかも本作は1930年代を舞台にしたコメディーでありながら、非常に現代的なテーマに深く斬り込んでいる。女性の地位向上に不可欠な「女性同士の連帯=シスターフッド」が描かれている点も素晴らしいと感じました。
私が演じたマドレーヌは、嫌なプロデューサーにも身分の違う恋人にも愛人になることを持ちかけられます。当時の若い女性にはそういう生き方しかなかったのです。私が好きなのはお金に困ったマドレーヌがパトロンに無心をしに行くシーンです。そこで彼女は自ら胸をはだけます。女性が助けてもらうには、自分の身を投げ出すしかないと、彼女は本質的に刷り込まれている。その感覚は2023年を生きる私にも、残念ながら理解できるものでした。
しかし、そこでオゾン監督はとてもモダンな描き方をします。その話を聞いた友人で弁護士のポーリーヌは「私、彼だったら寝てもよかったわ」と話すのです。本当の意味での自由な女性は、自分の意思でそれを決定できる。その描写がすごくいいなと思っています。
本作から17年に#MeToo運動のきっかけになったハーヴェイ・ワインスタインの事件を想起する方も多いでしょう。私は4歳から18歳までをバレエ学校で過ごし、16年に映画デビューをしました。常に現場は善意に溢れていましたが、もし16年以前に業界にいて何かが起こっていたら、すぐに他の人に話せなかったかもしれません。でも#MeToo以降、私たちは自分の身に起きたことを話し、それが法の場で解決できると知りました。大きな進歩だと思います。私はあらゆる問題提起のために映画がとても重要な手段だと信じてもいるのです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年11月13日号