ちなみに筆者が尾崎の曲を初めて聴いたのは、NHK-FMの「サウンドストリート」。水曜日を担当していた甲斐よしひろが何の説明もなく、いきなり尾崎の「15の夜」をかけたのだが、試験勉強中の中学生がこの曲を聴いて、何も感じないはずがない。おそらく日本中で同じようなことが起きていたはずだ。実際、尾崎のリアルな歌詞は徐々に注目を集め、全国各地に熱狂的なファンを生み出していった。

「卒業」で若者のカリスマに

 精力的なライブツアー、音楽イベント「アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティバル'84」での出来事(照明スタンドから飛び降り、左足のかかとを骨折)など破天荒なパフォーマンスでも注目を集めた尾崎。ブレイクのきっかけとなったのは、1985年1月にリリースされたシングル「卒業」だった。〈夜の校舎 窓ガラス壊してまわった〉〈この支配からの卒業〉といった歌詞が10代の若者に突き刺さり、スマッシュヒットを記録。この曲を収めた2ndアルバム「回帰線」がオリコン初登場1位になったことで、尾崎の知名度は大きく上がった。同時に“10代の代弁者”“若者のカリスマ”と呼ばれるようになり、そのイメージは尾崎自身を徐々に追い詰めることになる。

 筆者は一度だけ尾崎のライブを見たことがある。アルバム「回帰線」を引っ提げた全国ツアー「Tropic of Graduation」岡山市民会館公演(1985年6月11日)。「卒業」「I LOVE YOU」「シェリー」などをエネルギッシュに歌う尾崎の姿はいまも鮮明に覚えている。マイクスタンドをバイクに見立てて乗り回すパフォーマンスや、「退屈な授業中、俺はずっと浜田省吾や佐野元春の音楽を聴いていた」というMCも印象的だったが、もっとも強く心に刻まれているのは、観客の熱狂ぶりだ。

 「尾崎!」という凄まじい歓声を上げながら、ロックンロールで激しく踊りまくり、バラードを祈るような表情でじっと聴き入るオーディエンス。正直に言うと筆者は、「こんなにも一人のアーティストに心酔するなんて、ちょっと怖いな」と思った。それくらい当時の観客は熱烈に尾崎を支持していたのだ。
 

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