その後、歯周病菌の巣窟であるプラーク(歯垢)や歯石を取り除く治療(歯周基本治療)が確立し、保険で診療ができるようになったことで、歯周病の名はようやく市民権を得るようになったといえます。
2023年現在、日本歯周病学会では研究発表や論文で、歯槽膿漏を使うことは、一切なくなりました。歯周病の論文を書く上での基礎となる「歯周病学用語集(第3版)」(日本歯周病学会)にも、歯槽膿漏の記載はありません。一方、80代以上の歯科医師の中には、歯周病のことを今も「膿漏」と言っている人が少なからずいるのも事実です。
こうして歴史を振り返ると、歯槽膿漏という名称が使われ続けているのは、ある意味、必然という気もします。ある世代から上にはまだ、記憶に新しい、かつ、強烈なインパクトがある名前なのですから……。
歯周病の専門医たちはこの現状をどう思っているかといえば、多くは「関心を持ってもらえるなら、どちらの名称で呼んでもらってもかまわない」です。
ただ一つ、注意してほしいのは、冒頭でもお話しした通り、歯槽膿漏の段階で治療を開始しては、手遅れということです。
歯周病の進行度は5段階
【第1段階・歯肉炎】
歯ぐきが炎症を起こして赤く腫れている状態
【第2段階・軽度歯周炎】
歯ぐきの炎症が深いところに達し、歯と歯ぐきの間に溝である歯周ポケットができる。
【第3段階・中等度歯周炎】
炎症がさらに広がって、歯ぐきが本来、歯を覆っていた位置から下がり、歯の根元付近が露出してくる。歯の違和感や揺れ、口の中のねばつき、口臭などもかなり出て来る。X線では歯槽骨が溶けだして減っていく様子がわかる。
【第4段階・重度歯周炎】
歯ぐきはさらに下がって歯と歯のすき間が目立ってくるようになる。歯ぐきからの膿や血がひどくなり、口臭もいっそう悪化。歯がぐらついたり、歯の位置がずれて歯並びが悪くなったりする。入れ歯やインプラント治療が必要になってくるのもこのころから。