歯みがき粉のCMでときどき聞かれる、「歯槽膿漏(しそうのうろう)」。かつてよく使われていた名称です。今さら聞けませんが、歯周病と歯槽膿漏はまったく同じ病気なのでしょうか。歯周病と歯肉炎、歯周炎とは何が違うのでしょうか。歯周病専門医の若林健史歯科医師に聞きました。
* * *
「歯槽膿漏」と「歯周病」、まぎらわしいですが、全く同じ病気です。もう少し厳密にいえば歯槽膿漏は歯周病のうち、「重度歯周炎」の状態。歯科医院に行くと、「歯を残すことが、かなり厳しいです」といわれます。「歯の骨(歯槽骨)から膿が漏れる(膿漏)」と書いて歯槽膿漏、ですから、いわずもがなですね。
歯槽膿漏がいつから歯周病と呼ばれるようになったのかは、はっきりとはわかりません。そこで日本歯周病学会のホームページを調べたところ、設立した年の1957(昭和32)年から1967(昭和42)年までは日本歯槽膿漏学会という名称でした。日本歯周病学会に改名されたのは1968(昭和43)年でした。
つまり、今から55年ほど前までは歯科医師の間でも、歯周病は歯槽膿漏と呼ばれていたのです。
一般の人たちの間で歯槽膿漏が知られるようになったのは、歯周病のケアに特化した歯みがき粉、「デンターライオン」(ライオン社)の登場かもしれません。
1970年代ごろに放送されたデンターライオンのCM「リンゴをかじると(歯ぐきから)血が出ませんか?……」は大変な話題になりましたが、このCM内で使われていたのは歯周病ではなく、歯槽膿漏でした。
歯みがき粉が話題になる一方で、当時は歯科医院で受ける治療といえば、むし歯が全盛期。実は歯周病の治療を誰もが受けられるようになったのは1990年代に入ってからなのです。私が歯科医師になったころ(1980年代後半)は、歯周病の治療法は決まったやり方がなく、興味を持った一部の歯科医師がアメリカなどにわたり、学んだ技術を日本に戻って患者さんに、自由診療の形で提供していました。