The Beatles/英・リバプールで結成、1962年「ラヴ・ミー・ドゥ」でデビュー、70年解散。“最後のビートルズ・ソング”「ナウ・アンド・ゼン」が11月2日に、『ザ・ビートルズ1962年~1966年』(通称「赤盤」)、『ザ・ビートルズ1967年~1970年』(通称「青盤」)の2023エディションが11月10日に世界同時発売。写真は初の世界同時衛星中継番組「われらの世界」に出演した際のもの=1967年6月、英・ロンドン(写真:Shutterstock/アフロ)

ビートルズは人類必須

 ストーンズと並んで(少し先輩格として)世界中の尊敬を集めるのがビートルズ。まさかと思うが未聴の人がいるならば、人類必須のワクチンだと思って全アルバムを聴きましょう。

 最初から全アルバムが難しかったら、よくできているベスト盤の赤盤、青盤(73年)で。

 奇跡の名曲銀河系を聴き通して分かるのは、ビートルズはすべてにおいて天才なんだが、なにより、新しもの好き、いたずら好きだったことだ。バンドがいまも存続していたら、ヒップホップよりも、テクノやエレクトロよりも、いちばん実験していたことだろう。

 新しい。それがロック。

 音楽受容は配信が中心になった。アルバムを通して聴くのは、はやらない。音楽を、歴史順に、時代に位置づけて聴く若い人は、いなくなった。とくに文句はない。ないが、古典的な名盤を1枚通して聴く習慣をつけるのも、いいものだ。聴覚がさえてくる。いままで楽しめなかった音が、好きになる。趣味の幅が広がる。

 自分が、〈変わる〉。〈新しい〉音楽が、もっと好きになる。つまり、ロックになる。

 大きなお世話と思いつつ、過去名盤のこんな聴き方はどうだろう。

 フラグを立てる。

 たとえば、こんな感じ。

ロックは、歌詞だ!

Bob Dylan/1941年、米・ミネソタ州生まれ。62年に『ボブ・ディラン』でデビュー。2016年、ノーベル文学賞を受賞=1966年(写真:Gamma Rapho/アフロ)

 ノーベル文学賞をとったボブ・ディランの歌が文学であることは、いまさら言うも愚かなこと。たとえば名盤『ブロンド・オン・ブロンド』(66年)の「雨の日の女」を聴く。〈みんなストーンされなきゃだめなんだ〉というstoneは、ふつう、クスリ、ドラッグのことだと言われている。みんな一発キメなきゃだめなんだ、と。

 それもいいが、文字どおり、〈みんなが石で打たれるべきだ〉と聴く。すると歌の「感じ」はいっそう深くなる。

 新約聖書ヨハネ福音書だ。

 汝らのうち、罪なき者がいるならば、姦通でとらえられたこの女を、石をもて打て(当時、姦通罪は石打ちの死刑に値した)。イエスの言葉である。

 この世に、罪なき者はいない。他の生命を殺して食べて生きている存在。生きている、ただそれだけで十分に罪深い。

 ロックは、詩にビートを与える。言葉を踊らせる。二重、三重に意味が輻輳する。作者ではなく、聴く者が歌のほんとうの意味を見つけることもある。

 ニール・ヤングやレナード・コーエン、ルー・リードにドアーズ、時代はずっと下って80年代のザ・スミス。気に入ったフレーズがあったなら、辞書を引き引き、歌詞を超訳して聴いてみる。ロックの楽しみの大きなひとつだ。

(朝日新聞編集委員(天草)・近藤康太郎)

AERA 2023年11月13日号より抜粋

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