ビートルズは人類必須
ストーンズと並んで(少し先輩格として)世界中の尊敬を集めるのがビートルズ。まさかと思うが未聴の人がいるならば、人類必須のワクチンだと思って全アルバムを聴きましょう。
最初から全アルバムが難しかったら、よくできているベスト盤の赤盤、青盤(73年)で。
奇跡の名曲銀河系を聴き通して分かるのは、ビートルズはすべてにおいて天才なんだが、なにより、新しもの好き、いたずら好きだったことだ。バンドがいまも存続していたら、ヒップホップよりも、テクノやエレクトロよりも、いちばん実験していたことだろう。
新しい。それがロック。
音楽受容は配信が中心になった。アルバムを通して聴くのは、はやらない。音楽を、歴史順に、時代に位置づけて聴く若い人は、いなくなった。とくに文句はない。ないが、古典的な名盤を1枚通して聴く習慣をつけるのも、いいものだ。聴覚がさえてくる。いままで楽しめなかった音が、好きになる。趣味の幅が広がる。
自分が、〈変わる〉。〈新しい〉音楽が、もっと好きになる。つまり、ロックになる。
大きなお世話と思いつつ、過去名盤のこんな聴き方はどうだろう。
フラグを立てる。
たとえば、こんな感じ。
ロックは、歌詞だ!
ノーベル文学賞をとったボブ・ディランの歌が文学であることは、いまさら言うも愚かなこと。たとえば名盤『ブロンド・オン・ブロンド』(66年)の「雨の日の女」を聴く。〈みんなストーンされなきゃだめなんだ〉というstoneは、ふつう、クスリ、ドラッグのことだと言われている。みんな一発キメなきゃだめなんだ、と。
それもいいが、文字どおり、〈みんなが石で打たれるべきだ〉と聴く。すると歌の「感じ」はいっそう深くなる。
新約聖書ヨハネ福音書だ。
汝らのうち、罪なき者がいるならば、姦通でとらえられたこの女を、石をもて打て(当時、姦通罪は石打ちの死刑に値した)。イエスの言葉である。
この世に、罪なき者はいない。他の生命を殺して食べて生きている存在。生きている、ただそれだけで十分に罪深い。
ロックは、詩にビートを与える。言葉を踊らせる。二重、三重に意味が輻輳する。作者ではなく、聴く者が歌のほんとうの意味を見つけることもある。
ニール・ヤングやレナード・コーエン、ルー・リードにドアーズ、時代はずっと下って80年代のザ・スミス。気に入ったフレーズがあったなら、辞書を引き引き、歌詞を超訳して聴いてみる。ロックの楽しみの大きなひとつだ。
(朝日新聞編集委員(天草)・近藤康太郎)
※AERA 2023年11月13日号より抜粋