ローリング・ストーンズが18年ぶりの新作を発表。40年以上経って完成した”最後のビートルズ・ソング”も発売。今こそ、ロックを聴こう。音楽評論家で朝日新聞編集委員(天草)の近藤康太郎がガイドする。AERA 2023年11月13日号より。
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言葉本来の意味でワン&オンリーだったドラマー、チャーリー・ワッツが亡くなったのは一昨年。世界最長寿のロックバンド、ローリング・ストーンズも、これでいよいよ終わってしまった。
つまり、ロックも終わった。
そんなふうに早とちりしていた粗忽者に、ダイヤモンドも砕く一撃が飛んできた。ストーンズが、なんと新作を出した。オリジナルメンバーのミック・ジャガー80歳、キース・リチャーズ79歳である。中身も、スピード感があって3分以下の短い曲が並ぶ。いまふう。
昔、ミックにインタビューしたことがあり、そのとき「ロックの未来について、どう思います?」と、おぼこな質問をわざとかましたのだがミックは「そんなの知らないよ」。微笑した。いやな感じは少しもなかった。
そんなの知らないよ。
CDが売れず、配信が主体になり、聴衆は移り気で、曲は60秒の動画向け仕様。「ロックは死んだ」と何度も宣告された。ギターソロなんか聴いてもくれない。でも、そのときその時代で、いい音楽はあるもんだし、自分も創る。変わっていく。転がっていくつもり。
わたしは、そう理解した。
じっさい、1962年結成のストーンズは、ブルースに安住せず、レゲエやディスコやパンクや、時々の音楽的流行を取り入れつつ、しかし芯は揺るがない。だからこそ生き続けられた稀有なロックバンドだった。
なかでも『スティッキー・フィンガーズ』(71年)は、ロックの聖典みたいな1枚だ。ルースなギターのリフ(繰り返し)、ボーカルの扇情、ちょっと遅れて入るドラムズの不穏感。いま聴いてもロックのかっこよさが、見本市のように詰まっている。
60年代末から70年代初めに奇跡の名作を立て続けに出した。そこから、ストーンズは自分たちの音楽を変えた。転がることを、恐れなかった。
変わる。それがロック。