作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、しでかした政治家にあだ名をつける民主主義の健全さと、日本社会にただよう不幸感について。
【嘘でしょ!? をしでかした政治家】「ドリル優子」「イソジン吉村」の”今”はこちら
* * *
岸田さんはどこか不景気な顔つきである。こういう人が日本の顔のような立場で仕事をしているからなのか、日本の不幸感が深まっているように感じる今日この頃だ。
先日、東南アジア数カ国を1カ月間かけて旅した友人が、久しぶりに東京に戻ってきて老人の多さに衝撃を受けたと言っていた。彼女が言うには、東南アジアのどの国にいても、若者率は高く、社会全体で「今日よりも明日のほうがきっと良い日」と信じているようなキラキラした希望があったという。
東京にいても、東南アジアからの旅行者とすれ違う機会が増えている。先日、取引先の会社から、バイブの説明書に、英語、中国語、韓国語の他にタイ語を入れてほしいと要望があった。タイ人のお客様が激増していて、バイブや生理用品など、たくさんの買い物をしてくれるのだという。
たしかに、原宿にある私のお店でも、午前中などは店内に日本人はほとんど歩いていない。ベトナムや、カンボジア、タイ、マレーシアからの観光客……コロナ前までは中国語がよく聞こえていた店内が、一気に国際的な空気になっていた。こうなると販売員にも語学力が必要になってくる。英語ができる販売員のほうが、日本語で商品説明できるスタッフよりも売り上げを立てられるという世界になってきたのだ。
日本は物価が安いうえに、お店の人も親切で、街は安全で、モノへの信頼もあり、買い物するには最高の国なのだろう。岸田さんの不景気な顔の下、日本に暮らす者が経済的に生き抜くためにはお土産屋さんになるしかないのかも……という思いである。
そんななか、岸田さんのあだ名が話題になっている。「増税メガネ」「クーポン岸田」「銭ゲバメガネ」「検討使」……あだ名のほとんどがお金に絡むことであり、どれだけ今、人々が苦しみ、落胆し、不安と怒りを感じているのかが表れている。あだ名とは基本的にどこか愛着が感じられるべきものだと思うが、銭ゲバメガネに愛はない。心から呆れ、心からうんざりしているのだ。