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作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします

子育て」に苦労した人は、みんな、このことを知っています。「育て方がよかった」場合でも「悪い子」になる場合もある。いや、そもそも、「育て方が悪い・良い」とは、どういうことなのか? そんなに分かりやすく線を引けることなのか。「子育て」のリアルを知っている人は、簡単には「親の育て方が悪い」とは言えなくなるのです。

 たぶん仕事に打ち込んできた男性は、例えば「上司の指導の仕方が悪い」なんてまとめようとする人に対して、「いや、待て。すべては上司の責任なのか? 部下や同僚の責任はどうなる。そもそも、営業目標は適切だったのか?」と疑問を持つと思います。それは「上司の指導の仕方」というリアルを知っているからです。

「子育て」のリアルを経験してこなかった男性達に比べて、あんこうさんの夫が「育てる自信がない」と言うのは、とても正直で誠実な反応だと思います。

 僕の知り合いのTVディレクターは、妻から妊娠を告げられ、その場では「よかった!よかった!」と喜んだ後、一人になって、トイレで吐いたと言いました。

 妊娠が嫌だったからじゃないですよ。押し寄せる責任と不安に耐えきれず、思わず吐いたのです。男として父親として自分はちゃんとできるんだろうかという重圧が胃を絞り上げたのです。

 さて、あんこうさん。僕には子供がいます。最初の子供は、僕が42歳の時でした。

 40歳ぐらいの時に、「うむむ。もし、今、子供を持ったら、20歳になる時に俺は60歳か。持つか持たないか、考える時間はあんまりないぞ」と思いました。

 妻と話し合い、僕は、40歳代に子供を持つことを選びました。理由は、「なんとなく面白そうだ」と感じたからです。根拠はもちろんありません。

 子供をまだ持ってない時期には、あんこうさんがリストアップしたような理由も、頭で分かっても、リアルには感じられませんでした。

 ただ「子供を持つこと」に対して、「なんとなくポジティブ」と「なんとなくネガティブ」を天秤にかけて選んだのです。大きな決断とか決心とか確信、なんてものはありませんでした。その時に、僕の頭に浮かんだのは、「案ずるより産むが易し」とか「親はなくても子は育つ」なんていう言葉でした。いや、お恥ずかしい。でも、どんなに考えても、論理的に結論は出ないんだから、感覚で選ぶしかないと思ったのです。

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