カクテルの仕上げにのせるドライフルーツの位置も、写真の構図のように計算されている。写真家の植田正治が好きだという。「大工だった祖父も写真好きで人を写すときには真ん中ではなく、端にしたほうがいいぞと教わりました」(ロジェリオ)(撮影/今村拓馬)
カクテルの仕上げにのせるドライフルーツの位置も、写真の構図のように計算されている。写真家の植田正治が好きだという。「大工だった祖父も写真好きで人を写すときには真ん中ではなく、端にしたほうがいいぞと教わりました」(ロジェリオ)(撮影/今村拓馬)

「海外で見た景色や、街で見かけた言葉がカクテルのヒントになることもあります。気になったものを常に携帯にメモしています。レストランでサラダを食べているときに『あ、これ使いたいな』とか、『ロミオ&ジュリエット』というブラジルのお菓子をヒントにグアバとチーズ、ラムを組み合わせたカクテルにしてみよう、とか。たまにうまくいかないときもあります。味噌(みそ)とピーチで作ったシロップは、それ自体は美味しかったんですけど、お酒と合わせたら大失敗でした」

 と、ロジェリオは朗らかに笑う。

 ザ・リッツ・カールトン東京のヘッドバーテンダー和田健太郎(41)は、16年に店を訪れて以来、彼に魅了されている一人だ。

「ロジェさんのカクテルは目新しく感じるけれど、やっていらっしゃることはクラシック。いうなれば温故知新です」

 クラシックなカクテルは甘み、酸味、苦みのバランスがとれていることが大前提。ロジェリオのカクテルはその完璧な土台に、卓越したセンスがのっていると和田はいう。

「珍しいハバネロのバーボンを使ったり、ジンにジャスミン米とスパイスから作るメキシコの『オルチャータ』を合わせてみたり、シンプルながら『え?』という驚きと、人の気を引くロジックがある。クラシックな土台にのっているのは、ロジェさんの茶目(ちゃめ)っ気や人間性だと思います」

祖父母がブラジルへ移住 祖父の家具工場で遊んだ

 ロジェリオと20年来の仕事仲間である岡屋心平(52)はその人物像を「捉えどころのないとぼけた感じでみんなに好かれる二枚目風」と評する。

「彼はシェイカーをふるときも、他の人と違ってなにやら子どもをあやしているような、誰かの声に耳を傾けているような独特のやりかたをします。彼には人を惹(ひ)きつける、持って生まれた素質がある。台本なしで本番の舞台に立っても、予想を上回るパフォーマンスをみせるショーマンのような勝負強さも持っているんです」

 だがロジェリオ本人は「まさかバーテンダーになるとは、思ってもいませんでした」と笑う。ブラジルから遠く離れた日本へ身一つでやってきたのも、ほんの軽い気持ちからだったのだ。

 ロジェリオは1975年、ブラジル・サンパウロに生まれた。父はポルトガル系のブラジル人で、母が日系2世。母の両親は富山からブラジルに移った。五十嵐姓のルーツはここにある。大工だった祖父はブラジルに向かう船で祖母と出会い、結婚した。二人は綿花農場で働いた後、独立して小さな家具工房を建てた。ロジェリオは子ども時代、木の匂いのする祖父の工場でかくれんぼをして遊んだことを憶(おぼ)えている。

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