こんな日本社会で若くあり続けるというのは、生存のための技術であるともいえる。実際、逮捕時の映像を見ると、彼女に70代の雰囲気はなく、大きく目を見開くような仕草も含め「若さ」が身についている。見た目では受け入れられても70代超だと分かったとたんに、排除される経験を味わってきたのかもしれない。実際48歳と72歳では、就職の条件はまるで違っただろう。72歳女であれば、警備員の仕事(逮捕時の彼女の職業)も就けなかったのではないか。彼女には夫がいるというが、独り身だった場合、部屋を借りるのだって難しいかもしれない。実年齢よりも24歳も低い人生は、選択肢がぐんと増えたことだろう。彼女は原付バイクを取ろうとして、年齢と容姿のギャップに不信感をもった警察官の調べで事件が発覚したという。ガタガタの古い戸籍制度はだませても、人の目はだませなかったということか。

 実際の年齢と心の年齢が一致しない女性が起こした前代未聞の事件は、どのように着地していくのだろうか。

 若さということにしか女に価値を求めない社会で、国をだましてでも若く見られたいと行動する女がついに出てきた。それこそが、この国の病かもしれない。

※文中、女性の再婚禁止期間について「離婚後100日間」としていましたが、正しくは「6カ月間(2016年からは100日間)」でした。訂正します。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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