実在しない48歳の妹になりすまして戸籍を取得したなどとして、警視庁は10月22日、警備員の女(72)を逮捕した。(写真はイメージです/gettyimages)
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、架空の48歳の妹になりすまして戸籍をつくって逮捕された72歳女性の事件と、日本社会の病理について。

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 72歳の女性が、24歳若い40代に見られたいと就籍したとして逮捕された。

 就籍とは、戸籍のない人が新たに自分の戸籍をつくること。どういう人が無戸籍になってしまうかといえば、最も多いのが、離婚した女性が、離婚後300日以内に出産した子供たちである。

 明治31(1898)年からずっと、女性にだけ離婚後6カ月間(2016年からは100日間)再婚を禁じたり、離婚から300日以内に生まれた子は前夫の子として扱ってきたりした(改正民法は来年施行されるが問題は山積みだ)。そのため、前夫の暴力で別れた女性などが、出生届を出さず(或いは恐怖で出せずに)、無戸籍になってしまうケース等が近年社会問題化されてきた。戸籍がないということは社会制度から排除されてしまうということ。それが、どれほど人生を大きく制限する暴力かは、想像を絶するものがある。

 今回の事件は、深刻な「無戸籍問題」がある意味利用されてしまったものでもある。「若く見られたいから就籍」など、前代未聞の事件ではないか。多数の無戸籍者を支え、戸籍問題の専門家である井戸まさえさんに確認したが、「こんなこと聞いたことがない」と衝撃を受けていた。

 明治民法以降、ダラダラと続いてきたのが戸籍制度だ。家父長的で、超アナログで、これがあるばかりに夫婦別姓などがスッキリといかないのではないかとすら思われる、性差別的な制度でもある。一方で、未だに「入籍しました♥」と若い人ですらそんな誤用表現の結婚報告をしてしまう程度には、「戸籍=家族」というファンタジーが浸透してしまっていたりする。要は、ボロボロになった古い家を、思い出がたくさん詰まってるからなぁ〜と修復もせず、建て直すこともせずに放置したままガタガタになっちゃった……というのが今の戸籍制度かもしれない。

 今回の事件は、そんな戸籍のスキを突くようなものだった。しかも動機が「若く見られたい」から……である。性差別的な制度に性差別の病に侵された女性が挑んだ、前代未聞の“詐欺”事件と言える。

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小柳ルミ子も日本のエイジズムと性差別の犠牲者