収録は大阪のスタジオだった。収録当日、スタジオ入りした財津さんに谷本さんがあいさつすると、
「これはいい曲だよ」
と財津さんはほほ笑みながらほめてくれて、収録がはじまると財津さんはノリノリだったという。
低い声の人かと思ったら意外にも
「私がよく見ていた薬師丸ひろ子主演の映画『探偵物語』での財津さんは怖い暴力団の役だったので、実物もそんな感じなのかなと想像していましたが、あまりに優しい人でびっくりでした。そうした財津さんのイメージから、低い声の人かと思って曲を作ったのですが、意外にもキーが高かったんです」
と谷本さんは振り返る。
収録しながら財津さんは何度も、
「もっと高くてもいける」
「まだ大丈夫だ」
とテンションが上がっていき、キーの高い声で歌い続けたという。
「当初は、財津さんが『チョーダイ』というフレーズの部分は、あんなにキーが上がる予定ではありませんでした。財津さんは譜面を読める方で、それも見ながらアドリブで歌い上げたものがCMとなったのです」
と谷本さんが明かす。
財津さんの収録は無事、終了した。が、実はその後に大きな作業が必要になった。
財津さんの「電話してチョーダイ」の後に続く、
「みんなまあるくタケモトピアノ」
という女性によるおなじみのバックコーラスは、すでに収録済みだった。
「探偵ナイトスクープ」でも
「プロデューサーは、財津さんのキーは高いほうがいい、と判断し、女性のバックコーラスをもう一度、収録することになりました」(谷本さん)
そうしてタケモトピアノのCMは完成した。
CMは当初、関西と東海地方の限定のはずだったが、好評を博して全国でも放映されるようになった。
また、関西の人気番組「探偵ナイトスクープ」では、「タケモトピアノの謎 赤ちゃんが泣きやむCM」として紹介された。そのときの番組収録で、財津さんはタケモトピアノのCMを再現した。
その場にも、谷本さんは立ち会ったという。
「収録には丸1日かかり、ずっと私も見守りました。その時も財津さんは『いい曲、ありがとう』と言ってくださり、うれしかったです」