そんな打算的な政策だから、安倍政権時代に女性の社会進出や組織での登用が劇的に進むことはなく、「同一労働同一賃金」と言っても男女間の賃金格差は縮まることはなかった。女性の労働者数は増えたものの、その5割以上がパートなどの非正規雇用者で、むしろ彼女らにも社会保険の財源の担い手になってもらうべく、社会保険料の支払いや配偶者控除の見直しなどの制度変更が着々と準備された。
安倍首相は上場企業に「役員の1人は女性を登用して欲しい」と要請し、以前から政府が目標に掲げていた「2020年までに指導的な役割を果たす女性を30%程度にする」との目標達成にも意欲を示した。安倍首相はダボス会議でもこれをアピールし、“国際公約”にもなっていた。
だが結局、目標年次の2020年になっても実現にはほど遠く、公約だった「2020年まで」が「2020年代の可能な限り早期に」と曖昧な形で先送りされている。岸田政権になって、「東証プライム市場の上場企業の役員に占める女性比率を2030年までに30%以上にする」との目標を定めたが、目標の立て直し、後ろ倒しが繰り返されている。
そりゃそうだ。
女性が働くことへの社会の意識が変わらなければ、女性の登用なんて進むはずがない。鶏と卵の問題みたいだが、経済成長が先か、社会変革が先か、と言えば、中長期的な視野で少子化問題に向き合うなら、間違いなく後者、社会変革が先だ。安倍首相は自身が政権に就いている短期間に限って実績を上げる(株価を上げる)ことしか頭になかったから前者に偏り、機能しなかったのである。