もっとも、安倍首相が最初から強い決意で達成しようと掲げた目標だったのかは疑わしい。安倍首相にとっては「言ったもん勝ち、あとは野となれ山となれ」で、耳目を集め、支持率アップにつなげられれば成功だったのだろう。

 結果的にとはいえ憲政史上最長の7年8カ月もあったのだから、中長期的な視野を持って成長の種を蒔き、腰を落ち着けてじっくり育てることだってできたはずなのに残念だ。

 ただ、インバウンド(訪日外国人観光客)については、2020年からのコロナ禍がなければ、4000万人の目標数値を達成できていたかもしれない。2030年6000万人の目標は今も継続されている。

「観光立国で稼ぐ」というビジョンは、2003年の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を経て、08年10月に国土交通省の外局として観光庁が発足した時には政府内にあり、09年9月からの民主党政権で本格化していたから、正確に言えば安倍政権の成果ではないが、着実に実行に移したという意味では、デタラメなアベノミクスの中で数少ない成功例ではある。

 官邸で力を入れていたのは菅義偉官房長官だ。中国と東南アジア諸国からの旅行者に対するビザ発給要件を緩和し、アジアの中産階級の新たな旅行先として、日本への関心を高め、需要を掘り起こした。同時に、民泊を解禁するなど国内の受け入れ態勢も強化し、小売業は訪日客の爆買いに沸いた。2012年に1兆円だったインバウンド消費額は、2019年の4.8兆円にまでに拡大した。

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インバウンドの急回復は「円安」のおかげ