「本社でないと何もわからない」
ようやく松尾さんがブッキングドットコムジャパンの役職者と話ができたのは、この問題が報道されるようになった10月13日だった。
しかし、彼らには、カスタマーセンターに寄せられた宿泊施設のオーナーたちの窮状がまるで伝わっていない様子だった。
さらに西日本地区の営業統括という人物は「私たち(日本法人)はローカルオフィスです」と繰り返し、「オランダ本社でないと何もわからない」と言った。
それは、18日の社長との話し合いでもまったく同じだった。システムメンテナンスによる支払いの遅延がなぜ、これほど長期間にわたって続いているのか不明なほか、今後の見通しや補償について、何一つ解決策は示されなかった。
「カスタマーセンターから日本法人の社長まで、『オランダ本社でないと何もわからない』と言う。であれば、『私たちはローカルオフィスで、何もできません』と声明を出してほしい。みんな日本法人が何かできると期待しているから今も事情を知らない宿泊業者がカスタマーセンターに電話するわけです。それが時間と労力の無駄であることを明らかにしてほしい。でないと、電話オペレーターの人たちもかわいそうです」
宿泊業者が恐れる「報復」
被害者のグループLINEには「もう潰れそうです」「従業員に給料が払えなくて、みんな辞めました」「家族を養えません」「旅館を閉じました」と、悲痛な言葉が並ぶ。
「今回の問題で信用を失い、人生が崩れた人が大勢いるわけです。ただ、ぼくらのように表に出た人間はほんのごく一部で、ほとんどの人は泣き寝入りしている」
地方などで旅館を経営している人たちが「ドットコム」企業の未払い問題を訴えても理解されづらく、逆に声を上げることでさらに信用を失い、難しい立場に追い込まれかねないという。
「銀行や仕入れ業者から『あそこは危ないんじゃないか』と思われる。宿泊者からもトラブルが多い施設と見られるかもしれない。従業員の子どもが『テレビに君のお父さんが働いている旅館が映っていたけれど、大丈夫?』って言われたら傷つくじゃないですか」