個人旅行の草分け的存在である著者が、24年ぶりにイランを旅した。1カ月間、名所旧跡を経めぐり、奇景を追い、かの国の人々と触れ合った、大人のバックパック紀行である。
 旅の前、珍しく周囲の反対にあった。殊更に危険視する風潮に「イランとイラクの区別がちゃんとついているのか」と著者は小さく苛立つ。実際、これまでの旅と同様、往復の航空券を購入し、現地で宿と移動手段を確保しながら、旅は粛々と進むのである。特に「この風景が見たい」とネットで拾って持参した画像を手に聞き込み、タクシーと交渉して辺境の地に赴く情熱には脱帽。グラフィックデザイナーでもある著者が、カメラに収めた精緻なタイルや絨毯が、旅ごころをくすぐる。
 イランは果たしていいところか、ヤバい国か。本書は、著者の旅行ルートや泊まった宿の情報を、詳細に提供するのみだ。その上で、IS(イスラム国)の影響などにもふれ、「今日旅ができたところが、明日旅できるとは限らない」と結ぶ。だから行くのか、やめるのか。すべては旅人の自己判断に委ねられる。

週刊朝日 2015年6月19日号

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