『ONE MORE CAR, ONE MORE RIDER』ERIC CLAPTON(CD)
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『ONE MORE CAR, ONE MORE RIDER』ERIC CLAPTON(CD)
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『ONE MORE CAR, ONE MORE RIDER』ERIC CLAPTON(DVD)
『ONE MORE CAR, ONE MORE RIDER』ERIC CLAPTON(DVD)

 B.B.キングとの共演アルバム『ライディング・ウィズ・ザ・キング』を2000年夏に発表したあと、クラプトンは、ツアーは組まず、「ともかく自分が楽しめる音楽を」というコンセプトで次のスタジオ録音盤の制作に着手した。ここで彼がゲストに迎えたのは、インプレッションズ。大きな影響を受けたアーティストの一人、カーティス・メイフィールドを中心に多くの名曲を残したソウル/R&Bグループだ。すでにカーティスは故人となっていたが、当時のメンバー5人、『ライディング・ウィズ・ザ・キング』とほぼ同じ編成のミュージシャンたち、サイモン・クライミーらとともに、55歳の音楽家は新作のレコーディングを開始したのだった。

 しかし、少年時代のエリックに兄として接し、音楽やファッションなどさまざまな面で彼に影響を与えた叔父が録音開始直後に亡くなったため、本連載1回目でも書いたとおり、結果的にアルバムは、サリー州リプリーで過ごした幼少年期へのオマージュとなった。タイトルは、『レプタイル』。爬虫類を意味する言葉だが、当時のリプリーでは、親しい友人への称賛の気持ちを示すときに使われていたものだという。のちに「メンタル・ジュークボックス」という表現で説明するようになる、彼自身にとっての名曲の再訪がここから明確な形で打ち出されたことも指摘しておこう。

 その発表直前ということになる2001年2月3日からクラプトンは、ロイヤル・アルバート・ホールでの連続公演を皮切りに大規模なツアーをスタートさせている。スティーヴ・ガッド、ネイザン・イースト、アンディ・フェアウェザー・ロウらがバックを務め、ブルース・スプリングスティーンやスティングのバンドで活躍したキーボード奏者デイヴィッド・サンシャス、ビートルズとの共演で知られるビリー・プレストンも参加した。

 ロシアを含む欧州各国、米国/カナダ、南米各地を回ったツアーは、11月から12月にかけての日本公演で幕を閉じているのだが、その長い公演旅行のあいだに録音された2枚組ライヴ盤が翌02年秋にリリースされている。『ワン・モア・カー、ワン・モア・ライダー』だ。ロサンゼルス、ステイプルズ・センターでのコンサートが中心になっているが、場所など明記はされていないものの、日本での音源も収録されているらしい。また、同タイトルのライヴDVDも制作されている。

 2枚のディスクの流れは、NHKで放送された日本公演とほぼ同じで、前半は《キー・トゥ・ザ・ハイウェイ》、《ベル・ボトム・ブルース》、《レプタイル》、《ティアーズ・イン・ヘヴン》などをじっくりと聞かせる着席セット。そこから『ピルグリム』収録曲を中心にしたエレクトリック・セットへと移り、終盤はお約束の名曲たち。最後は、あの《オーヴァー・ザ・レインボウ》という構成だ。(ハイライトの《レイラ》では、優れたギタリストでもあるサンシャスが硬質なトーンでリフを担当している)。

 アメリカン・コミック風タッチのジャケットは、ギター・ケースを手に提げ、十字路に停まった車に乗り込もうとしている男を描いたもの。ロバート・ジョンソンの時代を意識したものかもしれないが、広げていくと、そのうしろで、赤ちゃんを抱いた若い女性と幼い女の子が彼を見送っていることがわかる。アルバム『ワン・モア・カー、ワン・モア・ライダー』は、これからはジャーニーマンやピルグリムとしてではなく、家で待つ人たちがいる者として音楽をつづけていくのだという意思を、さり気なく示した作品でもあったのだ。[次回6/17(水)更新予定]

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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