全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2023年10月23日号にはファームステッド グラフィックデザイナー 阿部岳さんが登場した。
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「農業王国」と言われ、食料自給率1100%を超える北海道・十勝地方。帯広市に本社を置き、農業×デザインの分野を開拓して今年で10年になる。
自身も帯広出身。東京で企業向けデザインの仕事をしていた頃、地元の農家の同級生から「農業に理解のある人を探している。力を貸してほしい」と頼まれた。農林水産業の6次産業化が提唱され始めた時期。農産物を加工しても、生産者自らが商品として販売するまでの施策がなく、地域の農家が困っている実情を知った。農業の未来に危機感を持つ生産者からの「本気で取り組みたい」という声を受け、仕事の方向性を変えた。
「東京で学んだデザインの実践を、地方の農業のために使える人間はそういない。自分のやるべき仕事はこれだと思いました」
農業をはじめとする1次産業に特化したデザイン・ブランディング会社を、同郷の長岡淳一さんと共同で設立。仕事の核は農場のシンボルマーク作り。企業にロゴがあるように農場にも「顔」が必要だと考えた。また企業にはCI計画という、自社の理念や特性を統一されたデザインを使って発信し、存在価値を高める戦略がある。それを農場に置き換えた方法をFI(ファーム・アイデンティティー)と名づけて実践している。