国際機関で働く妻と子どもたちが暮らすマニラと東京で2拠点生活。愛犬の散歩は入山の日課だ。「歩いたり、車で運転したりするルートをあらかじめ決められるのは苦手。自分で道を探したいタイプです」(撮影/植田真紗美)

どんなアイデアも肯定 相手を緊張させない

 入山の周辺に必ずあるもの。それは賑(にぎ)やかな「対話」だ。

 話し好きの入山だが、よく観察すると、入山自身が話す割合は決して多くない。

 肯定的な相槌(あいづち)や大袈裟(おおげさ)なほどのリアクションで相手の話を促し、会話の輪の中で発言が少ない人にさりげなく意見を求める。「学者は話が長い」と言われるが入山はむしろ逆。主役を自分以外に渡し、「ファシリテーター」として立ち回る名人だ。また、自分が面白いと感じた人同士をつなげて、新しい化学反応が生まれるのを見守るのも大好きだ。

 例えば、キリン、ファンケル、マルイなど異業種の大企業数社が入山を講師に呼ぶ合同研修、通称「入山塾」でも、主役は参加者。企業同士がお互いの統合報告書に対して「忖度(そんたく)のない指摘」をし合い喧喧諤諤(けんけんがくがく)盛り上がる様子を、入山はニコニコしながら眺めているらしい。

 ロート製薬の取締役会では、同じく社外取締役の米良はるか(レディーフォー社長)の推薦で、深い議論が必要な議案では臨時に議長役を務め、同社会長の山田邦雄(67)や役員の話を引き出していく。目薬の開発から発展し、化粧品分野での新規事業も成功させた山田は独自の発想力を発揮するリーダーとして知られるが、入山は「唯一の弱点」を嗅ぎ取っていた。

「天才肌の経営者ならではの悩みとして、自分の“頭の中”を社員にそのまま伝えるだけでは不十分で、大胆な成長戦略を実践しにくいもどかしさがある。思いやビジョンを言語化して伝達することが必要だと感じた」

 同時に山田以外の役員の思考も表に出し、擦り合わせていく。「数十年後、社会にとってこの会社がどんな存在であってほしいか?」、そんな問いを投げかけて、掻き回す。

 一方の山田は、入山の印象について「とにかく明るくて、いい意味で学者らしくない」と語る。「変わったアイデアでも肯定してくれるので、つい余計に喋(しゃべ)ってしまう。入山さんをビックリさせるくらいの報告をしようと、我々も刺激を受けています」

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