学術とビジネス、日本と世界を軽やかに行き来し、自由な空気をまとう(撮影/植田真紗美)
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 経営学者・早稲田大学大学院、早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄。気鋭の経営学者として、ビジネスパーソンを始め多くの人が、入山章栄の思考を、アドバイスを聞きたいと列をなす。人の話をよく聞き、対話を大事にする。面白いと感じた人同士をつなげることも好きで、多動的に行動してきた。この「多動的」な行動が、経営学には難しいと言われる理論構築の基盤になった。知の探索と深化のために、東奔西走の日々だ。

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「今、最もアポが取れない経営学者」。入山章栄(いりやまあきえ・50)を知る人なら、異論はないだろう。

 本業は、早稲田大学ビジネススクールの教授。しかし、大学での講義やゼミ指導、自身の研究に費やす時間以外に、企業のアドバイザーや社外取締役としての活動、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などメディアの出演・発信の予定で、入山のスケジュールは数カ月先まで埋まり、西へ東へ奔走する。

 例えば、6月のある半日に密着すると、午前10時から早稲田の研究室で、テレビ番組用のコメント収録を1時間ほど。事前にオンラインで取材をした地方の中小企業5社の経営戦略について解説する内容だ。終わるや否やタクシーに飛び乗って、東京・浜松町のロート製薬のオフィスへ。4年前から社外取締役を務める同社の取締役会に参加するのかと思いきや、「YouTube収録をする」と言う。

「大企業が抱える課題は“対話不足”。社内の仲間がどんな思いでどんな事業に携わっているのか、生の言葉を交換し合うコミュニケーションが、既存の技術や知識の結合を生み、イノベーションの種になる」。そんな入山の提案で始まった社内配信番組では、自ら聞き役となる。

 また、あるときは文化放送のスタジオに深夜まで籠(こも)る。ナビゲーターを務めるラジオ番組「浜松町 Innovation Culture Cafe」では、各界で注目する実業家や文化人をゲストに呼んでトークを展開する。テーマや人選も、入山が自ら企画に参加している。もともとラジオ好きという理由もあるが、「対話を公開する」という営みそのものが、日本の社会の活性化につながると信じている。

 ゼミも授業もディスカッション中心。入山の解説は録画して事前に共有。観た前提で、学生全員で議論をする。国内外のアントレプレナーを呼んで、活動の情熱や志をひたすら語ってもらう授業は名物企画となっている。

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