寺元さんの友人が、亡くなった星(せい)くんのために手作りしてくれた。「おそらに赤ちゃんがいたことを肯定して生きていける社会をつくりたい」(撮影/深澤友紀)

 毎年10月9~15日は赤ちゃんを亡くした家族に心を寄せる国際的な週間。突然訪れる赤ちゃんとの別れに、必要な情報を届けるためのウェブメディアを、経験者たちが立ち上げた。彼女たちの思いとは──。AERA 2023年10月16日号より。

【写真】助産師さんが残してくれた手形と足形

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 おなかの赤ちゃんの命をあきらめると医師に告げた夫の横顔を見ながら、冷たい人、と思った。きっと、エコー動画で動いているこの子を見てないからそんなこと言えるんだよ、と。

 都内に住む佐藤あすかさん(40)は2年前、妊娠12週の妊婦健診でおなかの赤ちゃんの異常を指摘された。胎児のおなかの壁に穴があり、内臓が外に出てしまっているという。その影響で内臓の機能が低下し、むくみが全身に広がっていた。医師は言った。

「赤ちゃんはお母さんのおなかの外では生きられません。このまま大きくなれば母体に負担がかかるし、次の妊娠を希望するなら、妊娠継続はあきらめたほうがいい」

 おなかの中で元気に動いているこの子の命を終わらせるなんて……。これまで「命を大切に」と教わってきたのにどう考えればいいのだろう。「治外法権」に迷い込んだような気がした。赤ちゃんとのお別れを経験した当事者はどう決断したのかとネットを検索したが、ほとんど見つからなかった。医師と面談を重ね、厳しい現実を告げられても、決断できない。コロナ禍で面談に夫の付き添いができなかったが、「土曜日なら」と病院から許可が出て、一緒に話を聞いた日、夫はその場で「あきらめます」と医師に伝えた。

火葬までにやれること

 面談の後に手続きがあったが、コロナ対策のため夫は外で待つように言われ、ひとり待合室に残った。決めたけど、本当にこれでよかったのかな。しばらくソファから立ち上がれなかった。そんなとき、助産師が駆け寄ってきて肩を抱いてこう言った。

「それだけつらいのは愛しているってことだよね。こんなに考えてくれていること、赤ちゃんにはきっと伝わっているよ。選んだことが正解だと思う」

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