拾ってきた石ころを眺め、壁の小さな染みにこだわり、殺人者の内面を探究することからスタートした秋山駿の批評活動は、その後、『歩行と貝殻』『内的生活』『舗石の思想』『砂粒の私記』といった特異な「私批評」を展開した。
その一方で、作家・作品論、中原中也や小林秀雄、織田信長などの評伝を著し、文芸時評も担当した。他に類のない独特の批評精神を持った貴重な文芸評論家であったが、2013年10月、食道がんで亡くなった。遺稿となった長編エッセイ『「死」を前に書く、ということ』(講談社)は、読者の魂を強打するほどの迫力に満ちたものだった。
本書は、晩年に雑誌や新聞に発表されたエッセイや評論を収録したもので、文学や小説だけでなく、政治からスポーツ、芸能、戦時の回想や日常の感想まで、範囲は幅広い。どのテーマにも味わい深い秋山節の音調が流れ、最期まで試み続けた「私とは何か」の問いが顔をだす。
中野孝次、吉村昭、小川国夫、三浦哲郎、安岡章太郎らへの追悼文も収められている。その文章は「人生」の深淵を覗くようだ。
※週刊朝日 2015年6月5日号