ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が会談した。両国には中国から支援を引き出したい共通の思惑がある。米国に代わる超大国の座を狙う中国はどうするのか。AERA 2023年10月9日号より。
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ロシアと北朝鮮による外交戦略は奏功するだろうか。
バイデン米大統領、岸田文雄首相、尹錫悦韓国大統領は9月の国連総会演説で、ロシアと北朝鮮の軍事協力を非難した。日米韓3カ国は水面下も含め、中国に対して「ロシアと北朝鮮の軍事協力に反対し、両国への支援を拡大するな」というメッセージを送り続けている。
ただ、韓国政府当局者は「中国が我々の主張を全面的に聞き入れることはないだろう」と語る。中国の核心的利益の一つは、戦後秩序を破壊し、米国に代わる超大国として世界に君臨することだ。ロシアや北朝鮮との協力関係を壊すわけにはいかない。
金塾氏はロシアと北朝鮮による軍事協力について「北朝鮮の弾薬とロシアの食料・石油を交換する簡単なディールから、北朝鮮製兵器とロシアが保有する大陸間弾道ミサイル(ICBM)や原子力潜水艦、衛星などの軍事技術との交換という難しいディールまである」と語る。
このうち、「弾薬と食料・石油の交換」はすでに一部が実施されている。おそらく、中国も黙認するだろう。正恩氏は8月、軍需工場を視察したが、ロシア向けに輸出する弾薬の増産を指示した可能性がある。
これに対し、「兵器とICBMや原潜、衛星などの軍事技術との交換」は簡単ではないだろう。中国の姿勢についても「米国を牽制するために黙認するはずだ」「米国への過度な刺激を避けるために反対するはずだ」など、政府当局者や専門家の間で予測が分かれている。
また、北朝鮮にとっても原潜や衛星などの開発は、困窮する経済をさらに悪化させる可能性がある。防衛省関係者は「海上自衛隊の潜水艦の建造費は1隻700億円ぐらいだが、原潜なら2千億円ぐらいする。数年ごとの炉心交換など陸上支援施設も必要になり、予算が膨大なものになる」と語る。航空総隊司令官を務めた武藤茂樹元空将は軍事偵察衛星について「低軌道で日本や朝鮮半島を5分間隔で撮影しようとすれば、単純計算で衛星が200機程度必要になるとの試算もある」と語る。