教員や市職員らのミスで自治体に損害が生じ、公務員個人が損害賠償を請求される事例が各地で相次いでいる。その判断は妥当なのか、やりすぎなのか。専門家に聞いた。AERA 2023年10月9日号より。
* * *
プールの水が出しっぱなしになり、担当教諭と校長が計95万円を請求された──。この夏、こんなニュースが大きな話題になった。
事故があったのは今年5月。川崎市の市立小学校で6日間にわたってプールの水が流出し、上下水道代で約190万円の損失が生じたのだ。30代の男性教諭がプール開きに向けて水をためる作業をした際、途中でブレーカーを落としていたために注水を止めるスイッチが作動せず、そのまま水が出続けていたことが原因だった。水が止まったかの確認もしなかったという。川崎市は8月、担当した教諭と校長に損失の50%にあたる約95万円を請求すると発表、9月15日に請求通りの支払いがあった。
実は、公務員のミスで自治体に損失が生じ、公務員個人が賠償請求される事例は各地で相次いでいる。プールの水の流出はその典型例で、担当者と管理職に損失の50%分を請求するケースが多い。
法的な根拠は
公務員のミスによって生じた損害を、本人や管理職が弁済すべきなのか。その法的根拠はどこにあるのか。国家賠償法では、公務員の「故意又は過失」によって第三者に損害が出た場合には、国または地方自治体がそれを賠償すると定めている。公務員個人は直接賠償責任を負わないが、「故意又は重大な過失」の場合、国や自治体が公務員個人に対して損失分を支払うよう求めること(求償)ができる。今回のような事例は「被害者」が自治体なので国家賠償法の対象にはならず、民法の規定が直接の請求根拠となるが、国家賠償法の趣旨も考慮されるという。弁護士で行政法研究者でもある平裕介さんはこう解説する。
「国家賠償法では、第三者に損害を与えた場合でも軽過失なら公務員個人は免責されることを定めています。萎縮せず、公務を円滑に遂行するためとされます。被害者が第三者でもそうなのですから、自治体内の損失でこれ以上の責任を問うのはバランスを欠きます。請求する場合は少なくとも重大な過失であることを条件に、労働環境などとも照らして慎重に考えるべきです。賠償割合も検討が必要でしょう。ケース・バイ・ケースですが、プールの水の止め忘れのような『ミス』の場合、仮に重過失とみなすとしても50%は多すぎると感じることが多いです」