読者、編集部、通販本部が一体となってつくったブラウス(撮影 写真映像部・上田泰世)

 本誌のほうでは、「“なんだか品がいい”おしゃれの基本ルール」という特集があり、そのブラウスの着こなしが開発ストーリーとともに紹介されている。

 この税込み9990円のブラウスは、7000枚を売るヒット商品となったが、この連携こそが、「ハルメク」の強みだ。

 本誌の特集でこのブラウスが紹介されているのは一部で、他のページでは、シニアの女性が品よくみえるシャツワンピースやロングベストなど他のメーカーの商品が自由に紹介されている。つまり編集権は独立している。

 ハルメク事業の売上220億円のうち、雑誌の売上は15%にすぎない。67%が通販からの売上になる。しかし、雑誌は、物販をするためのカタログ誌ではない。「ハルメク」の部数は日本ABC協会の考査をうけているので、14万部から49万5千部まで部数が伸びているのは、正真正銘中身が支持をうけているからだ。

 この編集と物販の絶妙の連携こそが、「ハルメク」の強さの秘密だ。

 しかし、経営が苦しくなったユーリーグの買収のためのデュー・デリジェンスを2008年に宮澤孝夫が行ったときには、この連携はまったくとれていなかった。創業オーナーの感性でつくった服は、億単位の在庫を抱え、創刊からの女性編集長のつくる「いきいき」という定期購読誌は、2006年の38万部をピークに釣瓶落としのように部数が落ち、20万部を切るまでになっていた。社員の給料は遅配となり、それどころか、会社は社員から借金をしながら決済を続けていたが、それでも足りず取引先に振り出した手形が不渡りになった。二度不渡りを出すと倒産ということになる。この段階で、会社は民事再生を申し立て、J-STARが設立したいきいき株式会社に全事業を譲渡した。

 2009年6月、創業オーナーは退任、J-STARは宮澤孝夫を代表取締役社長に就任させ再建をまかせる。

 宮澤は、もともと東大で航空工学を修士まで学んだエンジニアだ。卒業後は野村総研に就職するが、この時、上司に勧められて読んだある本に衝撃をうける。

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