「上を向いて歩こう」 佐治さんが選んだ震災後のCMに共感

 観ていて「佐治さんらしいね、やるよな」とジーンときた。涙もろさも、「海の男の血」が持つ一つのようだ。

「3.11」は、社長だったローソンにとっても大きな出来事だった。いくつも店が被災し、亡くなった人もいる。そのなかで、社員が一致して被災地のために動いた。指示しなくても、自分で判断して被災者のためを考える。トップとしてうれしい企業文化が、でき始めていた。

 これが、サントリーの「上を向いて歩こう」のCMと重なった。共感し、佐治さんからもらっていた入社の誘いを「受けよう」と決める。2014年10月、サントリーホールディングスの社長に就任した。

 就任時を挟んで6年間、経済同友会で副代表幹事を務め、農業改革の論陣を張り、東京オリンピック・パラリンピック招致の前面に出た。同友会には、この6月に亡くなった牛尾治朗・元代表幹事(元ウシオ電機会長)の勧めで、参加した。「経営者は、もっと広く世界をみなければいけない。日本のために尽くすという気概が、きみにはないのかね」と言われた言葉が、胸に響いた。

 今年4月、自らも代表幹事になった。感慨は、ひとしおだ。同友会には、多士済々の論客が集まっている。世界がどういう方向へいくのか、日本がどんな経済社会になっていくか、企業人はどういきたいのか、論じ合い、政府や社会へ投げかけていく。価値観が多様化し、対応していくことは容易ではない。でも、「海の男の血」が重ねてきた経験が、常に前へと、背中を押してくれる。

 会社の枠を超え、日本のために何をしていくか。牛尾さんがどこかで見守っていることを横浜港で確認し、再訪を終えた。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年10月2日号