増殖する本に窮した著者が、同じ悩みを抱える人たちに話を聞いていくノンフィクションだ。
本書の主題は“本との格闘”の一点に絞られる。しかし、本棚のない家も珍しくはない時代に、「床が抜け落ちる」不安に悩まされながらも本を手放せないでいる様は、当人が100%マジメなだけに同情以上に滑稽味が漂う。
井上ひさしの先妻には、故人のエッセイにある「床抜け」の真偽を確認。がん発病を機に貴重な資料もごっそり処分した内澤旬子、蔵書の電子化を決行した武田徹、電子化を請け負う「自炊」代行業者たちを訪ねる。圧巻は、作家・草森紳一が遺した3万冊の蔵書を散逸させまいと奔走する人たちの話だ。本の山が崩れて風呂場に閉じ込められた逸話が有名な草森だけに、レスキュー劇を読むようだ。
取材の発端は、著者も本の扱いに悩まされていたからだ。当初はホンワカとしているが、生活空間を圧迫する蔵書に耐えかねた妻から、ついに別れ話が切り出される。部屋で一人、かつて娘に読み聞かせた絵本を処分するラストは寂寥としている。
※週刊朝日 2015年5月29日号