そして、EUでは、既存の法律に基づいた執行も既に始まっています。今年3月にイタリアのデータ保護当局が「ChatGPT(チャットGPT)」の使用を一時的に禁止して世界的なニュースになりましたが、これはGDPRを適用して執行したものです。他の国のデータ保護当局もGDPRに基づいて調査や規制の執行に乗り出しているというのが現状です。今後はGDPRのようなAIに関連する既存の個別の法律で対応だけではなく、直接規制するAI法に基づいた執行もできるようになるわけです。

アメリカ・英国における生成AIの規制―紛争は既に起きているものの、自主規制に委ねる

 これに対して、アメリカは、生成AI自体を直接規制する法律はなく、今のところは業界の自主規制に委ねています。EUのAI法案のようにAIを広く規制するような連邦レベルの法律は、具体的な成立目途は現時点ではありません。

 アメリカは、テクノロジー(テック)企業が経済をリードしており、伝統的にはテック企業に対して、寛容な法体制を取ってきたところもあります。例えば、通信品位法という法律では、SNSなどのプラットフォーム事業者において、ユーザーのコンテンツについて幅広い免責を定めていました。生成AIについても、過度な規制について、慎重な姿勢をとっているのが現状です。

 今年の6月に、連邦議会上院民主党トップのチャック・シューマー氏が、AI規制のフレームワークについて提案したといった動きはありますが、今の時点では、法案の成立について具体的な見込みが立っているわけではありません。アメリカでは、連邦レベルでの個人データ保護法もいまだ成立するに至っておらず、AI規制についても今後の動きはまだ不透明なところがあります。ただ、カリフォルニアなど、AIを規制するための州法の議論が始まっているところも一部あります。個人データ保護法が各州でバラバラに制定されてきているのと同様に、今後それぞれの州においてAIを規制する法律が制定される可能性があります。

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