
「世界中で生成AIの利用が急速に拡大しており、特に欧米では既に生成AIに関する規制や執行に乗り出しています」
こう話すのは『ゼロからわかる 生成AI法律入門 対話型から画像生成まで、分野別・利用場面別の課題と対策』(朝日新聞出版)の編著者で、現在ドイツ在住の弁護士・輪千浩平さん。生成AI が侵害する可能性のある著作権やプライバシーなどの権利、利益の保護と、イノベーションの促進をどう両立させていくか。欧米の最新の規制の動向、そして早晩やって来る「AIの時代」に備え、今日のビジネスパーソンが持つべきスキルセットを輪千さんに解説してもらった。
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世界各国で始まる生成AIの規制―規制に積極的なEU
特にChatGPTが一般にリリースされてから、世界中で、生成AIが持つ経済的、社会的なインパクトに一層注目が高まっています。生成AIの導入が急速に拡大するに伴って、著作権やプライバシーの問題に対する懸念も生じており、特に欧米では既に生成AIに関する規制や執行に乗り出しています。生成AIに対するアプローチはそれぞれの国で大きく異なっているのが現状です。
例えば、EUは、生成AIを含むAI全般に関して、厳格なルールを設定し、制裁金などを通じて積極的に執行をしていく方針といえます。直接AI自体を包括的に規制する法律は現時点ではまだありません。ただ、欧州議会は、今年6月に、包括的なAIの規制法となる「AI Act(AI法)」の法案を採択しています。今後欧州理事会等との調整が必要となりますが、この法律は、早ければ年内に合意がなされ、2026年頃から適用される見込みです。
EUのこうした動きは、個人データの処理について企業に厳しい義務を課したGDPR(EU一般データ保護規則)と似ているところがあります。GDPRは、EU域外の企業にも適用される場合があり、高い制裁金が課されていることからも、世界中の企業がGDPRに合わせた対応を行わざるを得ませんでした。結局、GDPRをベンチマークとした法規制を各国が追って導入することとなり、GDPRが個人データに関するグローバルスタンダードを実質的に形成したという側面があります。EUは、GDPR に加えて、デジタル市場法やデジタルサービス法など、続々とデジタル分野の規制法を成立させており、AIの分野においても、いち早くグローバルスタンダードを確立しようとする狙いがあります。