かつての自民党政権のように党が強くなりすぎると、「権力の二重構造」や「透明性の確保」といった課題も再燃しかねないが、岸田に迷いはなかった。見据えていたのは2022年夏の参院選。ここで勝利すれば、「黄金の3年」と呼ばれる国政選挙をしなくてもいい期間が手に入るとみられていた。

 雇用保険料率の引き上げは先送り│。当初予定していた引き上げ時期を春から秋に先送りすることが2021年12月末の予算編成の最中、急きょ決まった。これも党主導だった。働き手や企業の負担が参院選直前に増えることを嫌った参院幹事長・世耕弘成の意向に官邸が即座に応じた。参院選に向けた不安材料を少しでも取り除くためだ。通常国会では野党の反発を招く可能性がある法案は極力抑えた。首相周辺は「参院選まで、のらりくらりいく」と語った。

不満募らせる安倍氏、声を掛けた先は

 2021年10月の衆院選では「絶対安定多数」の261議席を確保した。党内への配慮の積み重ねもあって、永田町は表向き静かにみえるが、火種はあった。最大派閥会長の安倍は、勢力が同数で第2位の派閥を率いる麻生や茂木ほどの処遇を受けているわけではなかった。外交ボイコットも、早いタイミングで発すべきだと繰り返していたが、岸田はすぐに動かなかったため、不満を募らせていた。

 菅周辺によると、その安倍はこの頃、菅に「早く派閥をつくったら?」と声をかけた。安倍は岸田が同じ宏池会を源流とする麻生派や谷垣グループと一緒になる「大宏池会」構想を進めると警戒していたためだ。単純に足すと安倍派を上回る最大勢力となる。

 菅に派閥をつくる考えはなかったが、政権中枢と距離ができている元幹事長の二階俊博が率いる二階派、前国会対策委員長(現選挙対策委員長)の森山裕率いる森山派などと連携する選択肢もあった。

 与党が衆院選で勝っても次の参院選で負ければ、政権は暗礁に乗り上げる。過去に繰り返された歴史を意識しない与党政治家はいない。菅に近いある議員は「参院選の結果次第で政局は大きく動くだろう」と語った。