岸田文雄の「聞く力」を盾にした政権運営に、2021年12月の世論調査は上向き傾向を示した。このころ、岸田が意識していたのは、元首相の安倍晋三と前首相の菅義偉だ。両政権の「官邸主導」を反面教師にして、自民党内に不満がたまらないよう配慮を積み重ねた。「やりたいことが見えない」と言われる岸田官邸を、最も身近に取材するのが総勢13人の朝日新聞首相官邸クラブの記者たちである。朝日新聞の連載企画「岸田官邸の実像」をまとめた『鵺の政権 ドキュメント岸田官邸620日』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、紹介する。
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衆院選の勝利から1カ月後の2021年11月30日、自民党本部4階にある総裁執務室で、首相で総裁の岸田と副総裁の麻生太郎、幹事長の茂木敏充は参院選の投開票日を協議していた。
「参院側は、できるだけ早い方がいいと言っている」。通常国会の召集日と参院選の日程を組み合わせた複数のシナリオを示した資料を手元に、岸田は述べた。7月10日や17日、24日が投開票日候補だったが、事実上、10日を推した。
17日だと若者の投票率が下がることが想定される3連休ということもあり、麻生は「今の自民党は若者の支持が強いですからねえ。投票率は森政権なら低いほうがいいが、いまは高いほうがいい」。
茂木は「公示日が沖縄慰霊の日(6月23日)と重なるので1日早めては」と述べ、政権が最重視する参院選の日程が固まっていった。