「これまで、スポーツといえば監督やコーチがトップダウンで指示をして、生徒はそれに従うというのが普通でした。でも、選手自身がデータを活用することで、自分で課題を見つけたり、その解決法を考えたりできるようになるんです」
なかでも、パスをつないでトライを目指すラグビーは、声かけやアイコンタクトが不可欠。チームビルディングに必要な、人材力・組織力・関係力の三つの力を伸ばしやすい。
運動が苦手でも達成感
東京大をはじめとする旧帝大や早慶上理などの難関大に多くの合格者を出す名門校・吉祥女子中学・高等学校では、10年以上前から体育の授業にタグラグビーを取り入れてきた。「ボールを持って前に走る」が基本のタグラグビーには、ドリブルの技術も必要ない。運動が苦手でも達成感を得られるため、スポーツへの忌避感を拭いやすい。
そんな同校が昨夏、STEAMタグラグビーを導入した。
「実際にタグラグビーをやって、どんな動きをすれば良いのかを机の上で考え、自分たちでプログラミングを組み立てていく。トライ・アンド・エラーで戦略を練っていきました」
そう説明するのは、体育科の楢原宏一教諭だ。受講を希望した20人のなかには、理系の生徒も多かったという。
「思考を繰り返すことが、タグラグビーの上達も早めるんじゃないかと思います。何より、生徒たちが楽しそうでした」(楢原教諭)
今夏、「エンジョイ・ベースボール」を掲げ、107年ぶりに甲子園の覇者となった慶應義塾高校野球部では、メンバー外の3年生が担う「データ班」が腕をふるった。ただ体を動かすだけでなく、フィールドの外でも自ら思考すること。そんな価値観がスポーツ界に広がりつつある。(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年9月18日号より抜粋