作家の久田恵さん(撮影/写真映像部・東川哲也)

約5年前、70歳のときに栃木県那須町にある「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」に移住した作家の久田恵さん。好評発売中の週刊朝日ムック『高齢者ホーム2024』で、移住した理由やサ高住での暮らしについて聞きました。

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自分のためだけに生きることを決断して移住

 久田さんの1日は、〝ニコちゃんマーク〞のマグネットを、玄関の外にある郵便受けにペタッと貼ることから始まります。それが「元気です」の合図。朝、スタッフが敷地内を見回り、マークが出ていない居室があれば、インターホンを鳴らし、応答がなければ電話をかけて安否を確認します。

「毎日の決まりは、それくらい。食事は居室にキッチンがあるので、自炊することもあれば、食堂に食べに行くこともあって。敷地内を散歩中にほかの入居者と会って『ちょうどおいしいごはんができたから食べて行って』と呼ばれることもあります。自由気ままですよ」

 現在久田さんが暮らしている「ゆいま〜る那須」は、2010年に開設されたサービス付き高齢者向け住宅で、天然無垢の木を基調とした戸建て風の住宅が、敷地内に点在しています。周囲を牧草地に囲まれ、高齢者向け施設というより、別荘地のような雰囲気です。最寄り駅からはタクシーで約15分。歩ける距離にコンビニやスーパーなどはなく、便利な場所とはいえませんが、毎日数便の送迎車が運行していて、移動販売車も定期的に来るため、買い物や通院などに困ることはありません。

 久田さんが長く暮らした東京からの移住を決めたのは、5年ほど前。全国の介護施設を取材する中で、「ゆいま〜る那須」を訪れたことがきっかけでした。

「ゲストルームに泊まらせてもらって、窓からの景色をボーッと眺めていたら、風がピューピューッて鳴るんです。生まれ育った北海道を思い出して。入居者たちがのびのび好き勝手に暮らしていて、楽しそうだったのも印象的でした。ここに住もうって決めて、2カ月後には引っ越していました。あまりにも急だったので、息子はびっくりしていましたね」

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自分のことだけを考えて生きる生活をしたかった