それは、かつて寝たきりになった久田さんの母が入居していた老人ホームでも感じたことだと言います。
「入居者の中には『嫁に無理やり入れられた』『こんなところに来たくなかった』と言って、泣いたり怒ったりしている人たちもいて。自分で選択できるうちに決めたいという思いはありましたね。自分で決めれば、多少嫌なことがあったとしても、自分が来たくて来たのだから、と納得できますよね」
コロナ禍で支えになった入居者とのつながり
ゆいま〜る那須の住宅は全部で71戸で、夫婦で暮らしている入居者もいます。特にコロナ禍では、ほかの入居者の存在が支えになったそうです。
「家の中に引きこもるしかなくて、孤独を感じるときでも、一歩外に出て敷地内を歩いていると、人の気配が漂っていて、安心感があるんです。全く知らない人は、ほとんどいないわけですから。誰かとすれ違えば挨拶をして。それだけで気分が変わることもあります。みんな人生経験が豊富だから、人との距離の取り方には長けていますよ。深く関わりすぎず、必要なときには支え合ういい関係です」
看護師、公認会計士、雑誌編集者、いろいろな職業だった人がいて、得意分野を生かして助け合って暮らしていけるところも、高齢者ホームならではのいい面だと言います。
ゆいま〜る那須では、敷地内の環境整備やサークル活動などは、入居者が主体となって実施します。ピアノの講師を探してきて、共同スペースの音楽室でピアノ教室を開催したり、木製品に絵の具を塗るトールペイントの講師を招いたり。ホームで働くスタッフも、教室の生徒として参加することがあるそうです。
高齢者ホームには、終のすみかと考えて入居する人も多いですが、久田さんは「ここを終のすみかと決めたわけではない」と話します。
「予定通りにいかないのが人生。終のすみかと決めてしまうと、そのことに縛られすぎてうまくいかなくなることもあるから、先のことはあまり考えていないんです」