「セルフチェックなので意味がないという批判もありますが、これをきっかけに実際に治療につながったケースもあります。認知の歪みやストレスの状況などを聞き取り、カウンセリングや性欲を下げる薬物療法を行います」
守秘義務があるため教育委員会や学校に情報が開示されることはない。福井さんは、「日本版DBSなど加害者を社会から排除するだけでなく、治療を含めた社会復帰支援があわせて必要」だと話す。
日本版DBSのすきま
この「日本版DBS」というのは、子どもたちを性加害から守るために、こども家庭庁が創設を検討している制度だ。子どもと接する職場で働く人に性犯罪歴がないことの証明を求めるもので、学校や保育所などを対象に、人を雇用する際に性犯罪歴の確認を義務付ける方針だ。だが、学習塾については、制度運用のチェックにハードルがある。そのため、義務付けはせず、性犯罪歴を確認するなどの要件を満たした事業者の認定制度の創設を検討している。
日本版DBSへの期待が高まる一方で、「法のすきま」への懸念もある。
「二度と子どもに関わる仕事につかないよう、せめて前科をつけたかったのですが、かないませんでした」
そう説明したのは、都内に住む女性だ。数年前、学童に通う娘がアルバイトの指導員から性加害を受けた。
「キスしてくれたらゲームをやらせてあげる」
指導員はそうささやき、娘をトイレに連れ込み、舌を絡ませるキスをした。さらに、指導員は自身のズボンを下げ、口淫するように言ったという。
娘が拒否し、親に相談したことで被害が発覚。だが、日時の記憶が曖昧だったことなどから、事件化できなかった。
現在想定されている日本版DBSでは、性犯罪歴の有無が焦点となっている。こうした「見えない性加害者」にはどう対峙すればいいのか。
前出の斉藤さんは、「子どもへの性加害はある」という前提を持つことが重要だと指摘する。
「塾や学校のように絶対的な地位関係がある閉鎖的な空間は性暴力が極めて起こりやすい。同僚を疑いながら仕事をすることは大変ですが、そんな環境にいるのだと自覚することが結果的に性被害を防ぐことにもつながります」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年9月11日号より抜粋