現場を見て「一本の木を余すことなく使い切る」というコンセプトを考えた。大きめの木は家具に、少し小さい木は玩具に、端材はノベルティーに、ヒノキの製材時に出るオガクズを抽出して消臭剤にと、山の全てを現金化、それを植林の原資にし、山のエコサイクルを回していくという事業だ。

 コンセプトをつくるのは簡単だが、実行するのは難しい。何しろ木材商社にとっては初めてのものづくりだ。最初は外注先に試作品をつくってもらい、清水社長は社員らに「これどうや。デザインはこれでいい?」と声をかけ、新規事業に巻き込んでいった。玩具の車輪が外れたり、部品が壊れたりしながらものづくりのノウハウを得た。

 国内の山から出た材木は18年に稼働したベトナムの自社工場で加工し、日本のほか中国、米国など7カ国に輸出する。今では年間売上高10億円の事業に育った。

 SDGsの機運が高まり、大手企業との連携も増えた。日清紡とはヒノキの香りをつけたオシボリをつくり、JALの関連会社とはジャンボジェットの木製玩具をつくり、販売している。

 こうした新事業の企画はすべて社員がアイデアを出し、作り上げてきた。

「正しいことをやっている。それがちゃんと儲けにもなる。そう思えることが社員の働くエンジンになっている」

 清水社長は「正しいことをやっている」ことが社内に好循環をもたらしていると言う。丸紅木材には数値目標もノルマもないが、IKONIH事業がポプラ事業と肩を並べる売上高50億円程度になる未来が見え始めている。(経済ジャーナリスト・安井孝之)

AERA 2023年9月4日号より抜粋

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