エロスの存在は街の活気の副産物である。人が集まる都市には濃度の差はあっても、その痕跡が必ずある。本書はエロスの香りのする街を歴史地理的な視点で考察した一冊だ。対談、論文、エッセイ、硬軟が絶妙にまざった内容で構成されており、読者の想像力を膨らませる。
 例えば新宿についての論文は、社会情勢の変化で、街の顔が一変することを見事に浮き彫りにしている。世界最大のゲイタウンである新宿二丁目はかつて赤線地帯であり、娼婦に男が群がった場所であった。赤線廃止で街が廃れ、空洞化する中、女装男娼たちが店の権利を買って、ゲイタウンという新たな役割を持つ街が形成されていった過程は興味深い。
 理想の女性器は日本と中国で異なるのかを真剣に検討する「日中おまた事情」は腹を抱えてしまう。女性相手に聞くわけにもいかないからか、「おまた要素は、おまた以外のところで判断しなくてはならない」と投げかける。外見から良いおまたを見極める方法を真面目に考察されては、是が非でも読まざるをえないではないか。

週刊朝日 2015年5月1日号

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